グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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みんなやってるは危険信号:インターネットで犬情報に振り回されない技とは

 いつの時代も情報過多におぼれてしまいそうですが、インターネットが様々な形で普及した今は、情報の嵐なのか情報の波なのかとにかくすごい量の情報が溢れているようです。インターネット情報との付き合いについて考えてみます。

● インターネット情報は本当に役立つのか

 インターネットには「役立つ」と思える情報もあるけど、全くのでたらめと思ういい加減なものもたくさんあります。特に専門の犬の情報になると、本当にビックリするようなことがたくさん書かれているのです。犬との暮らし方や犬をどのように理解するのかは個人の価値観が大きく反映されます。そのため誰もが同じ情報を共有するわけではありません。しかしその中にも、明らかに「自分の犬はこうだった」という程度の内容のものを、全ての犬がそうであるかのように情報として提供されてしまうことがあります。

 こうした個人の情報は、以前なら地域の公園で「うちの犬はねえ、こうなのよー」という程度の聞き流されるべき「うちの犬情報」ですが、それがブログに掲載されてしまうと真実のように語られます。そのブログがコピペで広がり、誰が書いたかもわからないような犬の情報ページに掲載されることで、たくさんの人が同じ情報を共有しているかのように勘違いさせる方向に導いてしまうのです。

 たとえばネットにはこんな情報が掲載されたとします。

質問:うちの犬は排便をしたあとに後ろ脚を蹴るような行動をします。なぜこんな行動をするのですか?
答え:それは犬の遺伝子情報に組み込まれた本能なのです。猫が排便のあとに砂をかけてわからなくするように、犬も後ろ脚で砂を便の上にかけてきれいにしようとしているのです。

どうですか?犬の行動学や行動の見方をきちんと学ぶ機会がなければ、返答のとおり犬は土を後ろ脚で蹴って便の上にかけているきれい好きだと信じ込んでしまう人もいるかもしれませんね。もしそうであったとしても誰も責任はとってくれません。誰が書いたかもわからないし、討論をする機会など与えられていません。情報は垂れ流されているだけです。

 こんなこともありました。ある方が犬が吠えるのを止めるために、空き缶に石ころが入ったものを犬に投げ付けているトレーニングをしているのを見ました。「これを使うとすぐに泣き止むんです。ネットで調べて、みんなが効果があったというので早速やってみました。」という事でした。では、そのあなたのトレーニングが犬の精神状態に与えた影響についてはどう考えていますか?という質問をします。なんのことだろうとキョトンとされてしまうことが大半です。

 インターネットに書いてあることをそのまま鵜呑みにしてしまうのはあまりにも危険です。せっかく知りたくて調べた情報が曖昧であったり、やり方に効果があっても副作用の強いものもあります。


● 情報を都合よく使う時のシグナル、「みんなやってる」は危険な言葉

 インターネットの情報に流されている傾向がある言葉とは「みんなやってる」というfれーズです。みんながやっていることは正しい、みんながやっていることは間違っていない、みんながやっていることはわたしもやっていいなど、みんながやっているというフレーズは、いろんな場面で行動を正当化するために使われます。

 こんな風に考えることがあるでしょうか。みんな犬と寝ている、みんな犬をソファにあげている、みんな犬を抱っこしている、みんなプードルを飼っているなどなど。本当はみんなではありません。犬をソファにあげない人もいるし、犬と寝ていない人もいるし、犬を抱っこしない人もいるし、雑種犬と暮らす人もいます。こんな風に使われるみんなは、みんなやっているから私もやっていいこと、みんながやっているから正しいことと自分の行為正当化するための「みんなフレーズ」です。

 これは大変危険です。なぜかというと個人の考える力を奪ってしまうからです。あなたが犬とそうすることがあなたの犬に対してどのような影響を与えるのかを、先の音の鳴る缶という罰が与える影響と同様に考える必要があるのです。
 あなたが今、犬といっしょに寝ることが犬に与える影響について考える必要があるのです。その行動によって犬を分離不安状態にしてしまい、犬が落ち着くことができなくなる可能性があるなら、それは今はしない方がいいのです。

 どんなことも、まず考えて選択するということが必然なのはずなのに、考えたくない傾向が強まると人も動物です。とたんに考えることを止めてしまいます。たくさんの情報は考えるためにあるのではなく、考えないようにするために使われていることがあります。

 フェイスブックなどになると同じ考えの仲間がするにグループになって集まりやすくなります。その小さなネットの世界では、本当にみんなが同じように同じような写真をとり、みんなが同じオヤツを食べて、みんなが同じ種類の純血種を飼っていることもあるかもしれません。でもそれも小さな世界に自分を閉じ込めることになっていないでしょうか。

 みんなと同じ、みんなと一緒で仲良しの世界は、孤独な社会から人を救ってくれる方法のひとつではあります。でもその世界観の中では犬は孤独から救われることはありません。結局はネットの世界なのです。SNSのつながりにも良い出会いはあります。しかしその出会いは目の前にいる家族や生涯に出会うことの限られているわずかな目をみて話せる人に代わるものではないと思います。


● インターネット情報と上手に付き合うための心得えとは

 犬との暮らしにインターネット情報を活用されるときには、情報のひとつとして入手したあとは、まず自分の犬にそれが合っているのか、そのことが犬に与える影響とはどのようなことかをよく考える時間を作ってください。
 そのためには、まず犬の性質(性格)を知るために犬をよく観察する査察を行い、その行動について考える考察という作業をします。その後、得られた情報が犬に与える状態について推測をして、それを犬との暮らしに導入するのかを決めます。しかし、実際にやってみてまだ早いと思うときには、一旦取り止めにして再び時期がきたらそれを行うといいでしょう。

 グッドボーイハートのクラスを受講されているなら、犬に試す前に直接、クラスのときに相談してください。その際に「みんな…」というフレーズがでないように要注意。あなたの犬はみんなの犬と違います。みんながやっているからあなたの犬もそれをする必要はないのです。むしろ、犬とのより良い関係を目指すなら、みんながやっていないような一歩先を進んでください。

 人がやっていないことを最初にやったり言ったりするのは勇気が必要です。人がしていないことを自分がまずやるには度胸もいります。それでも自分が今の時点でこうすることが犬に必要だと信じるのなら、やってみる価値はあるでしょう。

 人から変わっているといわれるようになるとなんだかホッとします。人と比べられることがなくなったことで自分らしく犬と付き合うことができるのだと、少し解放されたような気分になれます。人と違うことをしたいのではありません。あくまで犬という動物と真剣に向き合ってきたからこそたどり着いた場所です。

 このブログに書いてあることも真実かどうかを見極めるのはあなた自身です。正すべくは犬に対する姿勢のみです。情報はいつの時代も間違っていることもあるし正しいこともある、そこはとても不安定なものですし、時代の環境に応じて大きく違うものです。


コロ助8

 このブログは現在、週に3回程度の更新に切り替えています。
生徒さん側から「先生、ブログは2日に1回でいいですよ。消化に時間がかかるんです。」と言っていただきました。消化しようとしっかりと読んでいる方がいらっしゃることに勇気づけられ、さらに質を高める文章を自分にできる範囲で書き続けています。

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はじめての犬のお泊り体験②:犬が経験から学ぶ自然学習など

 はじめてのお泊り体験をした犬くんのお預かり時の学びをあげながら、犬の経験の中にぜひいれていただきだい自然学習についても触れさせていただきます。


● グッドボーイハートのお預かりクラスで欠かせない体験とは

 一昨日のブログでご紹介したとおりグッドボーイハートでの犬のお預かり場所は七山校になります。七山校に起こしいただいた方はご存知のとおり、西は唐津方面から北東は三瀬方面からどんどんと山の中に入っていきこんなに奥なのかというところにあるのが七山校です。庭はすり鉢上になっていて、庭の一部はほとんど山の斜面のようなものです。10歩進めばそこは坂という感じなので草履で駆け出すわけにもいきません。

 この地形で学べることまずは広いということでしょうか。周囲の人工的な車の臭いのする都心まで車では20分ほどかかります。犬がどの程度の広さを把握するのか実際に知ることはできませんが、野良犬や野犬のような行動力を残す犬であれば数キロ先までの環境をある程度把握することができるのではないかと思います。たとえば人間がある野原や山の斜面から肉眼で見渡して「あああそこに里があるな、家があるな、道路があるな」と思えるようなところまでは十分に把握できると感じるのです。すべての犬ではありませんが過去にわずかな犬の行動を観察しているうちに、犬の一定の環境把握の力は自分たちと変わらないのではないかと感じるようになったのです。

 この七山校は周囲にある人工的な建物は家だけで車の交通量も少なく道路を野生動物が横断することもよくあることです。ここにいればかなり人工物が遠いと感じるのは人だけではないでしょう。お預かりをするうちにわかってきたことですが、特に犬が2才未満のときにはこの環境になじむにはあまり時間がかからないようです。
 犬は1才近くまで脳内のシナプスが伸び続けています。一部には生後4ヶ月でその8割が成長を終えるというデータもあるようですがその成長が1才前後まで続いていくことを否定することもできません。この脳内のシナプスですが、一定の刺激を受けることでその刺激に対応するように電気信号を送るシナプスが伸びていきます。特に重要な情報を受け取るとその伸びはぐんとあるようです。犬にとって重要な情報というのは、犬が本来生きていく環境の中で獲得できるものです。その本来生きていく環境というのが「山」という環境です。

 人工的に繁殖をしてきた犬の姿からすると、犬が自然の中や土の上や草の中にいることに「なんか似合わないね。」という感想をもたれる方もいるでしょう。そうですね。犬は室内のインテリアにマッチするように姿かたちを変えられてきましたので、自然の中に存在する純血種は自然の一部としてはあまりしっくりと来ないかもしれません。しかしそうであっても、犬の外側は変わっても犬の内側はそう簡単には変わらないのです。不自然な体型でも山を歩いて上ろうとする姿、臭いを一生懸命にとって探索をしようとする姿、草を食んだり土を口にいれてみたりして自然から得られる恵を捜している姿など、どの姿も自然とのつながりを模索しているように感じます。


● 自然体験がなぜ特別な体験学習なのか

 自然環境に滞在する自然学習がなぜ犬にとって貴重な体験学習なのでしょうか。実は自然体験は犬にとってだけでなく人の子供にとっても同じように貴重な体験なのです。様々な子供時代に体験させたいことの中に、自然と共に過ごすことという経験があることを子供を育てた経験のある方なら記憶にあることでしょう。山村学校体験、キャンプ、ロッジでの宿泊学習など、危険性が高いことがあって遠ざけられている傾向が強いこうした子供時代の体験が幼い脳に影響を与えるのはなぜでしょうか。

 子供時代の自然学習について提唱している様々な学者の中でも特に有名なのが海洋生物学者のレイチェ・ルカーソンです。レイチェル・カーソンのセンスオブワンダーという本の中で描かれているのは子供の素直な自然の世界に反応する力です。まさに「センスオブワンダー=神秘さや不思議さに目をみはる感性」を大切にすることが人生をいかに豊かにしてくれるのかということを伝えているようです。人は大人になると共にある知識や情報を得る代わりにあるものを失います。脳は何が必要で何が必要でないかを選択していく大人の脳に成長します。自然を感じる力よりも計算が得意なことを良しとするかもしれません。

 犬は人とは違います。犬は動物として人よりももっと自然に近い動物です。そのため自然を感じる力を育てることが犬の生きる力となり、自然を感じる力を育てる機会がないことは犬が犬から遠ざかっていく時間となります。
 科学的にいうと犬の中にある原始的な脳の情報は、自然環境にある刺激を受け取ってその情報から得られる次の情報へと発展していきます。不思議なようで当たり前のことですが、環境がないと学習は進まないのです。育成と教育は異なるという意味で育成という学習は環境なしで考えることができません。自然学習は原始脳を発達させます。その中には環境を把握する力、危険を回避する力、体調を整える力など、犬が言葉では伝承できないかわりに遺伝子という情報ツールをつたって代々受け継いできた犬のお家芸的なものが含まれています。
 
 しかしこの遺伝子情報は生きているうちに犬がそれを体験しないと次にうまく受け継がれません。どんなに情報を持っていてもその遺伝子情報を必要な環境によって引き出されないと生きている上で大切な情報とはみなされないまま、つまり引き出しに鍵をかけたまま生涯しまっておいたということなので、不要なものとして処理をされてしまうのです。


● 犬の自然学習は無理に進めない、だけど決して諦めない

 犬が自然を知ってしまうのを恐れている方もいるかもしれません。あなたは都会の犬なの、何も知らなくていいの見なくていいの、何も嗅がなくていいのと犬にいいたくなることもあるかもしれません。というのは犬が自然を求めていることを知ってしまったら、犬を自然の中に連れて行かなければいけないと思うと面倒を感じられるからです。

 犬が自然を求めていると知っても、なかなか自然に近づくことができないのもわかります。多くの人々が自然は好きだけど虫は嫌い、自然は好きだけど土は汚れるからいやだ、自然は好きだけど山を歩くのはきついと感じられるようです。人間はそれだけ変わってしまったのも事実です。ここであえてそれを否定するつもりも避難するつもりもありません。それが自分たちの住まいから自然を遠ざけた人間という生き物だと思うのです。

 そして無理に自然の中に犬を連れ出さなくてもいいですよともお伝えしておきます。なぜなら人が緊張してあっちはダメ、そっちは危ないといってビクビクして犬を連れ出したら、犬はますます目の前にごちそうを提示されながら食べることを許されないというすごいストレスを与えてしまうことになります。
 
 ということでお預かりクラスのときに飼い主さんに代わって自然学習を促す機会を提供させていただいています。田舎育ちだと思われているわたしも、博多や東京の都心で成長しわずかな昭和の端っこに庭という自然に接しながら育った程度です。その自分を自然と近づけてくれたのはオポという犬の方でした。ここまでは大丈夫、ここからは慎重に、ここではじっとしているなど、様々な行動で自然との距離感を教えてくれました。今は逆に私自身が自然が遠くなった犬に対して、その距離感を伝えながら自然学習の機会を提供しているという訳です。

 お泊りの犬くんも初めての山歩きを体験しました。小さな体バランスの取れにくい体型で上れるところ上れないところを選択しながら草を食みながらすすみました。最初は段差も難しかったのにすぐにゆっくりと進むことを覚えました。興味が進みすぎて呼び戻しが難しいこともありましたがそれも勉強のひとつです。太陽の日差しを求めてひなたぼっこも続きました。いつの間にか体が冷えてしまうのですね。短い預かり時間でしたが、自然の中でその五感を通して得た情報が脳内で活性化していったことでしょう。

 有意義な体験をした後は帰宅した飼い主さんに「ごめんね」を言われることもありません。今度は飼い主さんと一緒に来れるといいね。10年間かけて育った尾歩山の森でお待ちしてます。


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レイチェルカーソンのセンスオブワンダーをもっと知りたい方はこちらのページへ

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はじめての犬のお泊り体験①:犬のお預かり先をどう選ぶのか

週末ははじめてのお泊りとなる犬くんをお預かりしていました。犬を預ける側の飼い主さんもドキドキ、犬の方も新しい経験にドキドキワクワクの時間を少しだけご紹介します。


●犬を預けるのはどういう時なのか

 犬を飼っている間に犬の生涯を通して一度も犬を人に預ける経験をしたことがないという方もいるとは思いますが、生活スタイルの変化と共にこの可能性というのが高まっているという事実は把握しておく必要があります。犬と生活する上で起きるかもしれない様々な可能性について、できるだけ犬に負担のないようにその状況を乗り切れるように準備することも飼い主の責任のひとつです。

 そのひとつが犬のお預かりです。家族の数が少なくなって誰かが常に自宅にいるという生活スタイルはすでに昔のことになりつつあります。特に都心部では年齢を経ても働く人が増えている上に趣味や付き合いなど、いろいろと忙しいというのが人の生活スタイルになりつつあるように感じるからです。

 犬をペットホテルや知人に預ける理由は状況によって様々です。その多くはビジネスでの出張、家族旅行、遠方に暮らす家族の不幸や事故など止むを得ない理由がほとんどです。中には犬は自宅に留守番させて旅行に行くのが趣味だという方もいるかもしれませんが、犬という動物の習性をある程度理解できる方なら留守番が犬に負担をかけてしまうことは事前にわかることです。犬を飼う前に趣味が旅行、出張が多い、転勤が多いという生活スタイルは、犬を飼う環境としてはあまり適切でないと判断されることを願います。

 旅行に行くときはいつも犬を一緒に連れて行くという方も増えているようですが、こちらも実際には犬に負担をかけていることが多々あります。犬という動物にとっては、新しい場所に連れて行かれることはひとつのストレスであるという認識を持つ必要があります。それが、自然環境溢れる場所であれば利点もあります。普段は都心の臭い環境の中にさらされている犬にとっては自然の空気と臭いだけで十分に満喫できるでしょうし、犬が本質的に求める環境であるからです。 
 一方であちこちをドライブしてなかなか落ち着けず人はいろんなものを見て楽しむ間に犬はバッグに入れられたり抱っこされているという状況下では、犬がどのような状態であるのかを再度考えてあげる必要があります。犬といっしょに楽しめない場に出かけるなら思い切って犬を留守番させていった方が犬にとってはずっとリラックスして過ごせるはずです。

 どちらにしても犬を人に預ける必要になったときにどこにもしくは誰に預けるのかについて、犬を飼ったらすぐに考えておきましょう。そして必要のある信頼できる犬の預かり先を確保しておきましょう。


● どこに犬を預けるのかという選択は飼い主の責任でもある

 そこで犬の預かり先を探す必要があります。もちろん犬にできるだけ負担のかからない預かり先を見つけたいものです。その選択は飼い主に委ねられていますが、選択の仕方についていくつかのアドバイスをあげてみます。

 まず犬の預かり先として最適だと思うのは、家庭環境で犬を飼っていない環境です。これは犬のテリトリーと関係性について受ける社会的なストレスを回避できるという理由です。このことが犬にとってとても重要であると同時に、重要であるだけに受けるストレスも多いということです。社会的な関係が社会生活の中で最も影響が強いのは同じ社会生活を送る人も同じですので、自分に置き換えると理解しやすいでしょう。

 犬を飼っていない家庭環境で庭のある戸建てで、犬を預かってくださる方がその犬についての行動の理解をしているというのがベストの預かり先です。もし自分が犬を預けるなら、こうした知人宅を預かり先として依頼したいと考えます。
 ただ、犬もいきなり預かり先に連れて行かれると適応するまでに時間がかかります。そのため犬を暮らしている間に定期的にその知人宅に立ち寄らせてもらいます。知人は犬についての理解を深めて犬との関係性を築く時間を得られるし、犬は環境についての理解を深めて安定した時間を過ごせるようになります。犬にとっては周囲の環境をきちんと把握できていることがその安定性を引き出す術なのです。

 逆に犬を飼っている知人宅での預かりについては注意を必要とします。普段よく会っていて仲良しだと思われている犬達も、テリトリーを共有するという時間が長くなると緊張感が高まってしまいます。元のテリトリーを持つ犬としては、遊びに来る犬が自分のテリトリーを荒らさずに帰宅してくれることで縄張りについて不安を感じずに済むのです。
 ところが宿泊となると一泊するだけで犬は食事や睡眠をその場所で得るという経験をします。この経験を通して自分のテリトリーをそこに獲得しようとします。そこが別の犬のテリトリーであれば、この犬と社会的な関係を結ぶ必要があります。それができなければマーキングをしてその犬のテリトリーを奪おうとする行動が出ることもあります。逆にテリトリーを作ることができず逃走傾向が強くなることもあります。こうした状況は犬の様々な行動から知ることができます。

 最近はちょっと違った状態も予測されます。犬の愛玩化が進みすぎ犬は特定の場所からあまり移動しなくなり室内飼いの猫のように一定の場所にいて、特定の場所に排泄をするという行動をする犬も増えているからです。狭い室内で特定の場所に滞在してペットシーツの上に排泄し、食べ物の気配を感じてウロウロし後は寝る生活なら、預かり先については別の場所がいいかもしれません。犬は環境を把握する力もなく、テリトリーを獲得する力も失い始めています。完全管理された室内だけで預かりをするペットホテル式で犬の預かり数がとても少ない場所がこうした犬には適切です。犬がこうして変化していくことについてはとても残念ですが、これも人が望んだ結果であると受け入れるしかありません。
 

● 犬のお預かりクラスを始めた理由

 わたしも犬の一飼い主であった時代があります。ひとり暮らしなので自分が事故や病気になったときにという不安は常にあり、預かり先についてはすぐに考えはじめました。
 犬の預かり先には犬のことを理解してくださる知人宅をお願いするか、いっしょに仕事をしていたスタッフに自宅に泊まりに来てもらうという選択をしていました。知人宅には共に暮らす犬たちがいたため、知人宅へ預ける場合にはその犬達への配慮を必要としました。一泊が限界かなと感じながらも別に預けられる場所もなかったためまずは自分の出張を控えるというのが先決でした。

 グッドボーイハートでお手伝いする犬のお預かりクラスは、生徒さんの犬たちに安心して過ごして欲しいという理由で始めました。オポがいる間はお預かりをすることはできませんでした。理由は先に書いたもので、犬の預かりが自分の犬に負担になるからです。

 今のところ犬を飼っていません。しばらく犬と暮らす予定もありません。それで自分にできることを考えたときに「犬の預かりクラス」の開講が決まりました。飼い主としての不安を解消して安心して犬との生活を続けてほしいという理由、そしてグッドボーイハートならではの理由も別にあります。それは、預かりの時間を通して犬のことをもっと理解できたらという思いです。普段は飼い主さんが管理する環境の中で見る犬の行動ですが、自分が管理する環境の中で犬がどのような行動をするのかと知ることで、犬の性質についての情報や様々な犬の可能性を知ることができるのではないかという欲求も盛り込まれています。

 そのため、グッドボーイハートの預かりクラスにはちょっとだけ「冒険」や「学習」の素材もプラスされています。一時的な飼い主として面度を見るのがドッグインストラクターを勤めるわたしですから、犬にとっては飼い主のように思い通りにはなりません。きっと一筋縄ではいかないことでしょう。預かり中は飼い主さんの飼い方を基本にしながら、しかし犬に自律を促す姿勢はどの犬に対しても変わりません。これも犬にとってのひとつの学習の機会になります。

 また、預かり場所は原則として七山校の方でお願いしています。飼い主さんが不在の時間に犬にはいつもできない体験や学習を促す機会としたいという目的でお預かりをしています。マンション暮らしで都会の固い公園の土しか踏んだことのない犬にとっては、フワフワで虫がたくさんいる草むらの中を歩くのは始めての体験になるでしょう。こうした体験を得られることが、都心の限られたスペースでの完全お預かりのペットホテルとは違うところです。

 今回はじめてのお泊りの犬くんはどんな体験をしたでしょうか。明日引き続きます。



dav

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犬に寄り添い自然に近づいた人のこと:昭和の犬の映画「ベンジー」のドッグトレーナーとの出会い

 映画やドラマの中に犬を含めて動物が登場すると、ついその動物の行動の方に注目してしまいます。注目する理由は、映画の中で動物がどのように使われているのか、その映画の撮影中に動物がストレスを感じていないかどうかを読み取ろうとしてしまいます。

● 子供のころに見た忘れられない犬の映画

 もちろんこうした見方をするようになったのは犬のトレーニングを仕事にするようになってからです。それまでの学生時代に見たものはただ脚本を通して擬人化もしくはヒーロー化した犬を見て単純に感動していました。小学生時代に見た犬が登場する映画の中で最初に感動した画があります。アメリカ映画の「ベンジー」という映画です。
 1960年代の映画であったと記憶しています。映画「ベンジー」のストーリーはいたって単純なもので、ベンジーがヒーローとして子供たちと自身の彼女犬を助け出すという子供にはわかりやすいものでした。ベンジーの主役だった俳優犬(フィルムドッグ)は、カリフォルニアのアニマルシェルター(保護施設)で子犬のころに保護された犬で、ヒギンスと名づけられていました。
 考えるとすでにこの時代にはアメリカでは保護施設が犬で満杯になり、保護施設から請出して再び家族として迎える保護犬というものが存在していたことになります。曖昧な記憶ですがベンジーを演じたヒギンスが捨て犬だったのにスクリーンのヒーローとして活躍したことは、映画の宣伝に多いに使われていました。当時小学生の自分にとっても、とても衝撃的なことでした。そのヒギンスですがテリア種のミックス犬でそれまでにヒーローとして知られていたシェパードなどの立派な犬とは容貌が明らかに違うことも新しい価値観として注目されたのかもしれません。

 犬のトレーニングの仕事をするようになってからは一度だけベンジーの映画を見ました。レンタルビデオショップにあったのかと思います。ドッグトレーニングとして見ると、その行動の正確さは本当に見事でどうやって教えたのかといつも不思議でした。それは、犬の芸当に関心があるからではありません。家庭犬にお互いの楽しみを越した芸が必要だも思ってはいません。ただ、このヒギンスとトレーナーはどんな関係だったのだろうかという関心が高まってしまったのです。


● ベンジーのトレーナーとの出会い

 そのベンジーの映画でフィルムドッグトレーナーのひとりとして参加したドッグトレーナーと福岡で会う機会があったのです。経過としてはこうでした。グッドボーイハートの博多駅南校があったころに、博多でフィルムドッグのセミナーを開催したいので場所を貸していただけないかという相談を受けました。生徒さんたちも楽しめるような内容であればという確認をして、セミナー会場として使っていただくことになりました。一般の方とグッドボーイハートの生徒さんも数名参加されていたと思います。そのセミナーのドッグトレーナーのうちの一人がベンジー(ヒギンス)のトレーニングを担当していたと紹介されたのです。ヒギンスはとても学習能力が高く積極的に取り組む特別な犬であったようです。とても楽しい時間だったと語られていました。
 フィルムドッグセミナーでは行動を起こしたら報酬を与える正の強化法が使われていました。ヒギンスも同じように報酬で行動を強化されていたのかどうかはわかりません。ただ、担当のトレーナーがその犬からたくさんのことを学んだといわれたのは印象的でした。
 会場を提供した者ということで個人的にそのトレーナーの方に紹介されました。紹介の際に知人が「オポという犬を飼っていらっしゃるんですよ。」と伝えてくださいました。「オポ?あのイルカのオポですね。」という返答をいただきました。それまでオポという名前を聞いて「イルカのオポ」と返されたことは一度もありませんでした。そのトレーナーさんがイルカのオポのことをご存知だったことを知り、それだけで本当にうれしくなりました。


● 犬と寄り添うことで出会った世界への共感

 そのベンジー担当のトレーナーさんがお昼休みにいくつかの民芸品を販売されていました。通訳の方によると先日結婚されたばかりだとのことで、その家族がこの民芸品を作っているということでした。写真を見せていただくとそのご家族は衣服を一部しかみにつけていないような部族の方だったのです。トレーナーの彼女は白い色のアメリカ人だったので少し驚きました。おみやげの民芸品の中から、いろんな動物の顔をしているお面というのを購入しました。お祭りのときに部族で使うらしく運気もあがるよといわれた物です。現在はグッドボーイハート七山校の玄関ホールに飾ってあります。

 個人的に深くお話しできなかったのは残念でしたが、犬に対する気持ちや姿勢、犬を通して学んだ時間、そんなことが新しい世界のパートナーとの出会いにつながったのではないかと思います。セミナーが終わって帰られる間際に「ヒーリング用のベッドが置いてあったけど、あれは何に使うのですか?」と尋ねられました。控え室に使っていただいた部屋に折りたたんだ人用のヒーリングに使うベッドを立てかけてあったのを見られたようです。「わたしが飼い主さんにヒーリングをさせていただくためのベッドです。」とお伝えしました。彼女は「本当にすばらしいこと。いつかいっしょにセミナーをしましょうね!」と言って立ち去られました。

 犬のトレーニングの仕事をしているのに、犬のヒーリングや人のヒーリングまでするようなったことで、人によってはわかりにくいと感じられることもあるとは思います。しかしこのとき、犬を通して学び同じ道を歩いている人がいるのだという心強さを得たのです。ありがたく不思議な出会いでしたが、ベンジーという犬が引き寄せてくれた貴重な出会いであったと感謝しています。
 

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犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「どうやって褒めたらいいのかわからないんです」という方は必読です

 昨日のブログ<犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「ごほうびがないとしないんです!」という方は必読です>に続いて、ごほうびトレーニングの大きな落とし穴についてお話します。
 今回はよくある質問「どうやってほめたらいいのかわからないんです」についてです。この疑問をいだいている飼い主さんは、おそらく犬のこと、そしてトレーニングの仕組みをかなり誤解していると考えられます。


●ごほうびトレーニングの報酬は何なのか?

 ごほうびトレーニング(陽性強化トレーニング)を取り入れている飼い主さんからの質問に「どうやって褒めたらいいのかわからないんです。」という質問があります。これはトレーニングの手順が曖昧になっているために起きる間違いです。

陽性強化法の方程式はこうです。↓

  犬にオスワリという → 犬が座る → 報酬を与える


この報酬の部分に「褒める」を置き換えるとこうなります。

  犬にオスワリという → 犬が座る → 報酬を与える=褒める

 どのように褒めたらいいのかわからないという飼い主さんは、報酬として褒めるという行動を使っています。ごほうびが「褒めること」なので、犬が褒められていることを喜んでいる場合でなければこの方程式は成り立ちません。

 これは正の強化(陽性強化)法を用いた行動修正や行動学習における報酬の原理です。つまり報酬=ごほうびとして使用するものは、動物に行動を起こさせることができる「適切なもの」であるという原理です。報酬が行動を起こさせる動機にならなければ学習は成立しません。
 さて、そこで質問ですが、報酬として飼い主が褒めるという行為を与えることは、報酬として適切なのでしょうか?褒める行為を報酬に使った結果、犬がオスワリといっても座らなくなったのであれば報酬としての効果はなく適切ではなかったということになります。


●なぜ飼い主は大げさに犬を褒めるのか?

 しかし、飼い主はこう考えるのです。自分の褒め方が足りないのだと、犬にわかるように褒めなければいけないと思ってしまうようです。飼い主は「褒めるというごほうび」をもらって喜んでいる犬の反応を得ようとして大げさな褒め方をします。大きな声で「おりこうさんね~~」とか「グーッド」といいながら犬の顔をくちゃくちゃになるまでなで回します。この飼い主の興奮に対して当然犬は興奮します。ハアハアいったり、とびついたり、走り回ったりすることもあるかもしれません。この犬の反応を見て飼い主は犬が喜んでいると思います。飼い主の「褒める」という報酬を喜んで受け取ってくれたのだと勘違いするわけです。

 しかし、そのうちにオスワリといっても犬は座らなくなります。むしろ、犬の方は座るともみくちゃに撫でらるという嫌なことをされるわけですから、警戒して座らなくなることもあります。撫でられたあとにブルブルと身震いをすることもあるでしょう。飼い主の興奮にストレスを感じ自分を落ち着かせるシグナルまで出しています。ところが飼い主は褒め方が足りないから犬が座らないのだと思って褒め方はもっと大げさになります。それでも結局のところ犬はオスワリをしなくなり、今度はオヤツを手にもってオスワリをさせるという形に変えます。報酬の種類を変えて対応をするわけです

 報酬を食べものに変えるとオスワリする確率は高まります。飼い主に褒められることよりも、オヤツの方が犬にとっては座る行動を起こす動機が高まるからです。ところが犬によってはオヤツを見せてもオスワリをしなくなります。この流れについては昨日ブログに書きましたので復習してください。
 

● 飼い主が犬を大げさに褒めるようになった理由は他にもある

 大げさに褒めるやり方が広まってしまったのは他にも理由があります。それは、本やネットの情報です。本やネットやテレビで紹介されるしつけ方について質問されることがあります。その多くはいい加減で曖昧なものばかりですが、その中には「犬が行動したら(オスワリしたら)大げさに褒めることが大切です」というものがあります。

 なぜこのような情報が広がってきたのかというと、トレーニングのある現場では大きな声で犬の胸を軽く叩きながら褒めるような仕草を交えて犬に声をかけているドッグトレーナーを見かけることがあるからではないでしょうか?この手法は正の強化ではなく、多くは負の強化のトレーニングのために使われています。

負の強化(陰性強化)法の学習過程は次のようになります。

  犬にオスワリという → 犬に嫌なことが起きる→ 犬が座る → 犬の嫌なことがなくなる

犬のトレーニング(訓練)に使用される、鉄製のチョークチェーンやハーフチェックという犬に一定の刺激を与える道具を使用してオスワリを教える場合にはこの負の強化法が使われています。

 犬にオスワリという → 犬の首がチェーンで一瞬締まる → 犬が座る →チェーンが緩む

この原理が負の強化トレーニングです。国内でも正の強化(陽性強化)トレーニングが普及する前は、この負の強化(陰性強化)トレーニングで犬の訓練やしつけが行われることも多くありました。現在でもこうしたやり方は学習の方法のひとつとして使用されています。

 このトレーニングは犬の性質やトレーニング道具(チョークチェーンやハーフチェックの首輪)の使う技術によって犬のダメージがかなり違ってきます。犬は首にショックを与えられるという嫌なことを体験します。犬によっては精神的なダメージを受けてしまい、オスワリどころか他の行動を起こさなくなるほどへこんでしまうことがあるからです。オスワリのあと全く動かなくなってしまう犬もいます。ところが、他の行動もこの方法で教えていくためには犬に何かの行動を起こしてもらう必要があります。そのため回復を図るために大げさに犬を褒めることで回復を図ろうとしてするようです。

 もちろん、大げさに褒める必要があるのは技術のないトレーナーです。チョークチェーンなどを使った負の強化法のトレーニングの技術が高ければ、どの道具が犬に与える影響も予測できるので選択を間違えることも少なく、またチェーンの締め方と緩め方も調整できるため犬のダメージも少ないのです。ということは大げさに褒める必要はないということです。一般の飼い主さんにはあまり向きません。自分の技術が上がるまでに犬に与えるダメージが大きすぎるからです。


● 褒める報酬がいらないなら犬はどうしてオスワリするの?

 犬を褒めてあげることは大切なことです。しかし、犬を大げさに褒めている必要はないのです。
報酬としての褒めることは必要ありません。かといってオヤツで釣ることを推奨もしません。では報酬は必要ないのかということですが、オペラント条件付けの正の強化(陽性強化)の枠を抜け出れば犬に報酬を与える必要はありません。ところが犬の側には報酬があります。それを動機付けといいます。

 犬にとって、いや人にとっても大切な報酬は内的な動機付けによって成り立っています。つまり、できるということ、やったということ、もっと深くいえば社会に所属しているということです。犬はとても感受性が高いため、飼い主の反応によって自分の行動が適切であり飼い主に認められたことを理解できます。もちろんここには関係性が影響します。お前なんかに認められたくないよという人の前では協力的な態度は示しません。それは社会的な行動として当たり前のことです。

 人間の中は誰にでも好かれたいしよく思われたいという気持ちもときどきはもしくはいつもあることを否定できません。しかし、そういう表向きの社交性は犬にはありません。そこがまた犬の魅力でもあり信頼できる動物でもある理由です。犬の場合は好かれたいという自分の評価を気にするような行動ではありません。社会的な関係を重要視できれば、犬は必要なときに自ら協力的な態度を示してくれるでしょう。飼い主が犬に甘える行動をとっているならこの関係はなかなか獲得できません。犬を甘やかしたいという気持ちは、犬に好かれたいという気持ちの裏返しであることもあります。犬はその社会性を通して感じたことを行動で表現してくれます。そして人に成長の機会を与えてくれます。そう思うととてもありがたい存在だと思います。

 犬を侮るなかれ。犬はシンプルでわかりやすく正直なだけなのです。


2017.3.19-3

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犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「ごほうびがないとしないんです!」という方は必読です

 トレーニングクラスのときによく聞かれる質問にはこんなものがあります。「ごほうびを見せないと犬がオスワリをしないんです…」

 ごほうびトレーニングの落とし穴にはまったようです。ごほうびトレーニングはきちんと理解して使わなければ、罰を使ったトレーニングと同じように危険性があります。今回はこのごほうびトレーニングついてお話しします。


●ごほうびトレーニングって何?

 10年以上前になりますがグッドボーイハートで満席御礼になったセミナーがあります。たしか「ごほうびトレーニングの落とし穴」という名前で開催しました。当時は犬にごほうびを与えるトレーニングが流行っていた時期だったので、当校でも報酬を用いたトレーニングを導入していました。しかしこのごほうびトレーニングは注意して使わないと、大変な落とし穴にはまってしまうという危険性についてお話したものです。

 好評だった理由の中には単純に「ごほうびトレーニングに違和感を覚える」というものもありました。確かにこのトレーニングは一部の方にとっては違和感のあるものなのです。その違和感を大切にして、なぜこんな風にざわざわした感じになるのだろうと思ったら、ぜひこの機会にごほうびトレーニングの真実について考える機会としてください。

 ごほうびトレーニングとは、犬に行動を起こさせるために「報酬」=「ごほうび」を用いるトレーニングです。行動学の分野での正式名称は「正の強化トレーニング」、心理学の分野では「陽性強化トレーニング」と名づけられています。この報酬を用いて行動をさせる学習の心理について分かりやすく説明したのはBFスキナーという行動学者でした。スキナーが流行った時代はまさに行動主義の全盛期です。もちろんこれらの学問は人に対して起きたものです。しかしどのような学問もその学問を定義づけるためには状態を再現させるためのくり返しのテストが必要です。このテストにはたくさんの動物も使われています。たとえば古典的条件付けの実験に犬が使われていたのはご存知の方も多いでしょう。そう、パブロフの犬のことです。

 スキナーの学問の中でこのごほうびトレーニングに当てはまるのが、オペラント条件付けという学習過程です。オペラント条件付けによる学習は、行動の後に「報酬」もしくは「罰」が出たりなくなったりする原理によって成り立ちます。学習の過程は以下の四つです。

1 正の強化
2 正の罰
3 負の強化
4 負の罰

このうちの、正の強化のことを陽性強化=ごほうびトレーニングといわれています。
陽性強化トレーニングでは、犬が行動を起こすと報酬が出ます。こんな方程式になります。

  犬にオスワリという → 犬が座る → ごほうびを与える

上記のオペラント条件付けの陽性強化法を実践の行動トレーニングで使うためには、いくつかのポイントをくわえる必要があります。たとえば、ごほうびは時々与えるにすることとか、行動を起こした後にごほうびの出る合図(特定の音)をくわえておくことなどです。ここではごほうびトレーニングを実践していただく説明ではないので、これらは割愛させていただきます。


●ごほうびトレーニングの落とし穴のひとつ「オヤツがないとしないんです。」

 このごほうびトレーニングの落とし穴のひとつめは、犬がオヤツを見せないと行動を起こさなくなるというものです。自己流で始めた方の多くがこの落とし穴にはまっています。たとえば、オスワリといっても座らないがオヤツを手に持つと座るとか、オスワリといっても座らないがオヤツをポケットにいれる様子を知ると座る、オスワリといっても座らないがオヤツの臭いを感知すると座るなどもこの例です。

 これらはごほうびトレーニングの鉄則である、ごほうびを時々にするという約束と、ごほうびを見せずにするという約束、ごほうびを直接与える前にほうびの出る合図を与えておくというポイント制にしなかったことが失敗の理由です。ごほうびを見せてもしなくなるパターンには、報酬のランクを吊り上げていくような状態になっていることもあります。最初はドッグフードでしたがそのうちしなくなる、次はジャーキーを見せるとするがそのうちにしなくなる、次はチーズを見せるとするがそのうちにそれも効果がなくなるというものです。

●なぜ、ごほうびがあるのに行動をしなくなるのか?

 こういう落とし穴にはまってしまう明らかな理由は、もうすでにごほうびは報酬ではなくなくなっているという事実です。この段階になるとすでにこれは報酬ではなく賄賂です。事前に千円札を見せられてそこに座ったら千円を上げるよといわれたら最初は誰もが椅子に座るかもしれません。そのうち千円では座らなくなり、一万円札を提示されると座るようになります。しかしそのうち一万円札も価値がなくなってしまうことがあるのです。自分の身に置き換えて考えるとわかりやすいのです。

 中には、一万円ももらえるならなんどでも椅子に座るよという方もいるでしょう。ですが、これを関係性と捉えたらどうでしょうか。あなたに一万円を見せてなんども椅子に座るように申し出る人に対して信頼関係を結ぶ自信がありますか?むしろ、一銭もお金を持っていないのだけどどうしても今必要なことなのでこの椅子に座ってほしいと頼まれ、椅子に座るとありがとうといわれるほうが物事を頼んだ人との関係性を重要視したことになります。

 それは人間のはなし、犬はいくらでもごほうびをもらいたがると思うかもしれません。確かに犬の中には大変拘束されている状態が強く、人との関係性についての関心を失っている犬もいます。完全管理の状態が犬にとっては人の奴隷のような状態になるため、非常に不安定でただ欲求が食に偏ってしまうからです。しかし、犬の中には人との社会的な関係に関心を失っていない犬もいます。これらの社会的欲求をある程度備える犬達は、報酬を提示されて行動を起こすことや、報酬の予想させて行動を起こさせるどのようなごほうびトレーニングにも異質な行動をとるようになります。わかりやすいケースでは行動をしないというもの、微妙な反応ではそのごほうびトレーニングのあとにストレス行動を行うという場合もあります。若干の拒否反応や人への関心を失い始めるのもその傾向を示しています。

●大切にしたいのは何か

 さて、そこでもう一度考える必要があります。犬にオスワリやマテを教えて行動を起こさせたいのはなぜでしょうか?犬におりこうさんになってもらいたいから、人におりこうさんな犬だと自慢したいからでしょうか。逆に、犬と良い関係を築いていきたいからでしょうか。もし、あなたが犬に何かを教える理由が、犬とより良い関係を築いていきたい、自分の犬にとっての最大の理解者でありたいと思うのならお伝えしたいことがあります。

 ごほうびトレーニングの落とし穴にはまってしまい、ごほうびを見せないとしない、ごほうびの合図がないとしない、ごほうびで行動をさせたあとに違和感が残るのなら、それは犬の方もあなたとより良い社会的な関係を築いていきたいという高い欲求を残しているシグナルです。あなたの犬はまだ報酬の奴隷には成り下がっていません。だからぜひそのことを喜んで新しい関係を築くチャンスを掴んでください。

 ごほうびトレーニングは犬の学習過程の中でいつの間にか導入されています。人もいつのまにかごほうびで強化されていることがあります。ポイントカードなどはごほうびトレーニングの良い例です。しかしそれが関係性に影響を与えるとなると抵抗を示すのも社会性の高い動物である人としてはナチュラルな反応なのです。ごほうびトレーニングで社会的関係は築けません。会社で一定の給与をもらっていても、その仕事に没頭してがんばれるのは、仕事を通して何かを身につけたり人との関わりを通して自分の中に得られる内的動機付けがあるからです。そうでない場合は仕事はただお金を得るだけのつまらない時間になってしまいます。

 ごほうびトレーニングの落とし穴、まだまだありますので少しずつ紹介していきます。


カレン0612

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犬の感情と精神の世界:犬の喜びや楽しみを考える

 犬とともに暮らしていると、犬が喜んでいるのかなとか、楽しんでいるかなといった犬の気持ちを知りたいというのは自然に起きる気持ちです。それだけ、犬と一緒に楽しく生活したいという飼い主の思いが強いということでしょう。室内で暮らしている犬でも庭で暮らす犬であっても、犬と暮らしている人の気持ちを動かす強い力を持っています。その犬に対してわたしたち人も、もっと近づきたいという思いを強くし、あなたの気持ちが知りたいのだと犬の気持ちに関心が高まります。
 ところが、この犬の気持ちへの干渉は時に擬人化という誤解と妄想の闇を生むこともあります。犬を擬人化してとらえたり、妄想の眼で見るようになってしまうと、犬のことを知りたいという純粋な気持ちが間違った方向へ向かってしまいます。人は犬を理解したつもり、でも犬は人から理解されずに毎日を過ごすというお互いに望まない結果を生むことにもなります。それだけに、犬の感情の世界へ近づくときは慎重にしたいものです。今日は、犬という動物の持つ感情の世界にわたしたち人間がどのくらい入り込むことができるのかを考えてみました。


●犬の感情の世界は人とは違う

 先日のブログ「犬語セミナーで学ぶ『犬の気持ち』:犬はただうれしく楽しく喜ぶ動物なのか?」でもご紹介したように、クラスやセミナーなどの機会を通して犬の行動について行動学的な見方を説明すると、飼い主さんの中には犬の状態が自分が今まで思っていたものと違うということに驚かれることがあります。

 たとえば、人にとびついてくる犬を見て、犬が喜んでいる、この犬は人(わたし)のことが好きだと感じるかもしれません。しかし犬の行動学として受け取れば、犬は単にとびつきという行動で興奮を表現しているということになります。しかし、興奮するというのは人にとっては喜びの表現のひとつでもあります。
 スポーツ観戦をして大声を上げて手をたたいている人は行動学的には興奮していますが、その人に感情について尋ねれば「うれしいから」とその状態を説明してくれるでしょう。こうした人の行動と比べたとき、とびついて興奮する犬の行動を喜んでいると受け取ってしまうのかもしれません。しかし、これは犬を擬似化した受け取り方です。激しく興奮している状態が喜びだというのは、動物の種や、同じ種でも文化によって異なります。犬にとっての喜びとは何だろうという深い疑問を切り離して犬の行動を見る必要があります。

 犬が興奮行動を激しく表現しているということは犬のストレスレベルが上がっているという犬のメッセージでもあります。犬同志の反応を見ると犬の状態はもっとよくわかります。興奮してとびついた犬がとびつかれた犬に無視されたり吠えられたりして遠ざけられたり押さえつけられたりするのを見たことがあるでしょうか。これらのとびつきに対応した犬の行動は通常の犬の反応なのです。過剰に興奮する行動を犬は受け入れ難いものなのです。

 よく聞かれる話ですが、ある犬が別の犬に前両脚を上げてとびついていったところ、相手の犬がガウガウと声を出して威嚇行動をします。これに対してとびついた犬の飼い主が「うちの犬は遊ぼうといっているだけなのにどうして攻撃するの?」と怒りをあわらにします。威嚇した犬の飼い主の方も「いきなりとびついてくるのに対してうちの犬が怒るのは当たり前のことだ」と反論して飼い主同士の喧嘩に発展してしまいます。とびつかれても反応をしない犬は、相手の犬を無視をしているだけかもしれません。もしくはお互いに犬の年齢が数ヶ月と未熟な年齢で、暴力的なコミュニケーションには暴力的なコミュニケーションを返すというやり取りをしているということもあります。

 そう説明しても、やはり犬がとびついているのをどうしても喜んでいるのだと見てしまうかもしれません。興奮しているとびつき行動を犬が喜んでいるのだと人が受け取ることを一方的に間違っているとはいえません。しかし正しいともいえないのです。どんな感情や情動も高まり過ぎるのは動物にとって不利益をもたらします。そのため犬という動物の機能として、高まりすぎる状態をお互いに抑制すべき機能を持っているのです。それが社会的コミュニケーションを身につけた発達した犬の「とびつき行動」に対する適切な反応です。

 また、動物の持つ感情の世界というのは種によって異なります。犬と人はお互いに種の異なる動物で、それぞれに違った習性を持ちます。たとえば、犬と人では排泄をどこでるすのかという行動の違いがあり、その目的もちがいます。犬と人が共感しやすいのは、習性は違うが欲求が似通っているためです。しかし、欲求と感情も量り方が違う世界のものです。

 そうであっても感情の世界については十分にお互いを尊重し、すぐに理解しようと思ったり踏み込みすぎないようにすることです。あなたがテレビを見て笑ったり泣いたりすることに犬が干渉しないように、犬の感情の世界についても人はゆっくりと近づいて欲しいのです。


●共感しやすい犬の感情の世界

 わかりやすい犬の状態というのもあります。たとえば、犬が不安を抱えているのは行動でも表現されやすく表情でも見て取れ易いものです。不安なときに震えたり硬直したりする体のシステムは人と同じものです。わたしたちには共通したシステムもあるのです。

 また、犬が不安を抱えていることに影響されて人も同じように不安を抱えてしまうこともあります。飼い主が不安を抱えることでさらに犬の不安は増すわけですから、犬の不安行動が強まる理由が結局のところ人(飼い主)にもあるという落とし穴が存在することも事実です。とにかく、人は不安を受け取りやすく自分も同じような不安を抱きやすいという傾向があるようです。

 不安というとネガティブな感情となりますが、その裏には喜びがあります。つまり、犬は不安がなくなると安心を得るという喜びを得られます。犬が不安が解消すると同時に安心を獲得するということです。
 
 犬がひとりで留守番をしていて飼い主が帰宅してきたときに、玄関に走ってくる犬の表情に緩み(リラックス)があれば、少し不安だったけど飼い主が帰ってきて安心を取り戻したという喜びを得たときなのです。

 ところが飼い主が帰宅すると犬が走ってきて飼い主に飛びついたあとに部屋を走り回るという行動をしたときは、犬の興奮のレベルがとても高いと判断します。この犬は留守番中の不安がかなり高まっていたことを推測できます。飼い主が帰宅して安心を獲得できるような状態ではなくなっていたのです。

 ストレスは一旦上昇しすぎるとなかなか低いレベルには落ちてくれません。不安も高すぎると安心を獲得するのではなく興奮になってしまうのです。こうした行動は犬の留守中の環境を整えていくことで帰宅時の犬の行動に変化を引き出すことができます。

● 喜びや楽しみとは何だろう

 あなたにとって喜びとか楽しみとはなんでしょうか。人の場合は同じ種でありながら価値観や文化の違いの幅があるため、喜びと楽しみにも個性が反映されてしまうことでしょう。ある人にとっては、おいしいものを食べること、ある人にとっては家族と過ごす時間、ある人にとっては帰宅して映画を見ること、ある人にとってはスポーツ観戦で興奮することかもしれません。平たく見ればそのどれもが社会生活が安定していて安心して平穏な毎日が過ごせている状態の現れとしての喜びの表現ではないでしょうか。

 犬はどうでしょう。いつもリードで拘束されたり、家の中からひとりで外に出ることもできません。そして、人という種の異なる動物に育てられることで一時的に社会生活を奪われた状態でもあるのです。人の方は家族同然として迎えた犬であっても、犬の立場からみれば理解できない動物が理解できない接し方やコミュニケーションをもって近づいてくることに最初は興奮してしまいます。人と同じ状態であると見てしまうのは犬に対してあまりにフェアでないと感じます。

 こんな犬たちの世界の中に、安心を安全、そして犬という動物としての健康な欲求の表現、社会性の発達と社会生活が得られれば、犬は喜びや楽しみを得てそれを静かに安らぐ表情と行動で表現してくれるかもしれません。
 動物の本質的な欲求を人が準備することは簡単なことではありません。犬は家族同然に迎えて生活をすることを希望する飼い主にとっても、ある面で犬は飼育される動物であるという事実を認めておくことも大切なことです。そう考えると人が一方的に犬に与えている立場ではなく、犬に不便を強いる立場であるという謙虚さをもって犬の喜びと楽しみのために惜しみなく努力もできると思うからです。犬の本当の喜びと楽しみの世界に触れたと感じるまでに必要なたくさんの時間とたくさんの学びの過程は犬と暮らす者、犬を愛する者の喜びのひとつです。



ごろ寝オポ

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老犬に安らかな毎日を提供するために:老犬のお世話とケアのための訪問クラス

 老犬と暮らす飼い主さんのご自宅に、老犬のお世話やケアについてご相談を受けてアドバイスをする、老犬のお世話とケアのためのクラスのために家庭訪問に出かけました。


●老犬のお世話は何才位からどのように始まるのか
 
 老犬といっても年齢を特定できるものではありません。犬のサイズによっても個体差がありますが、一般的には7歳くらいからが老化が始まるころ、10歳になると若い老犬という時代、13歳になると老犬の中期、15歳になると十分に老犬の後半期に入るころにあたります。

 どんな動物も年とともに老化が進みます。犬も同じように老化によって体の働き方が今までと違ってきたり、長く使いすぎた内臓や体の一部に負担がかかって養生が必要になってきます。そのため、今まではできていたことができなくなってしまったり、生活の環境やスタイルを見直す必要性がでてきたり、人の手を必要とするいわゆる介護というお手伝いが始まることがあります。

 自分の犬がお世話をする必要がある状態になるのか、いつになったらそれが始まるのかは犬によって違います。飼い主側は不安を抱えやすいものですが、まずは何か変化が見られたら早期に対応の準備を始めるか、対応について相談できるような場所や人を確保しておきましょう。

 老犬の中には初老の時期にあまり手を必要とせずに寝ている間に旅立っていく犬もいます。介護のお世話をしようと準備を始めたときに別れを迎えることもありますが、旅立ちは犬の決めた特別のことなので尊重するとともに、犬の変化に慌てるよりは、備えあれば憂いなしの心構えで取り組まれると気持ちが安定して人の方も落ち着きを得られます。


● 老犬のお世話とケアの仕方を学ぶためのクラスとは

 老犬の介護についてサポートさせていただくためのクラスには3つのクラスを準備しています。犬への手当てヒーリング=ドッグヒーリングの訪問クラス、飼い主さんがご不在や忙しい時間にお世話をする訪問介護クラス、そしてお世話の方法やケアについての質問を受けたり、生活スタイルの提案や飼い主さんができることを提案する訪問カウンセリングクラスです。今回は訪問カウンセリングクラスで定期的に訪問指導をさせていただくためにご家庭訪問をしました。

 老犬のお世話についてのご相談クラスの目的は、犬が状態に応じてできるだけ安らかに毎日を過ごしていけるように環境を整えることです。グッドボーイハートのクラスをご利用した経験のある方であればもうお分かりのとおり、犬のトレーニングのためのクラスの内容も同じことを目指しています。老犬期に入った犬にとっての必要性についてお伝えし、環境を整備するためにできることを飼い主さんと一緒に考えながら提案していきます。

 老犬のお世話については飼い主さんの生活スタイルによってできることと、できないことにかなり違いがあります。ですが、犬が一番近くにいて欲しいのは最後まで飼い主です。飼い主が年老いた犬のそばでオロオロとして不安でいる姿を感じることで犬も落ち着きをなくしてしまいます。飼い主が哀しみを抱えていると犬はそのことも受け取ってしまいます。誰でもが死という旅立ちのときを迎えるように、犬もその日をいつか迎えます。老犬のお世話はその旅立ちの日に向かっていく日々でもあるので、飼い主の気持ちが落ち着かなくなることは当然のことです。残された大切な時間を悔いのないように、お世話を通して会話していただくために、この訪問クラスでできることを提案させていただきます。

 何をやっていいのかわからないとつい言葉がけやさすったり撫でたりする時間が長くなってしまいます。「痛いの?」「どうしたの?」「どうしてほしいの?」「何をしてほしいの?」こういうことを声で話しかけすぎたり落ち着かせようとして慌ててさすったりしすぎることで犬を疲れさせてしまうこともあります。こんな会話が言葉なしにできるようになるのがドッグヒーリングです。


 ドッグヒーラーがヒーリングする訪問ドッグヒーリングクラスとは別に、ご自宅でも飼い主が自分で犬に対してヒーリングができるようになるための訪問クラスを近くに開講いたします。たくさんの方に犬に触れるコミュニケーションとつながりの時間を体感していただきたいと思います。ご案内をご希望の方はお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。



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犬語セミナーで学ぶ『犬の気持ち』:犬はただうれしく楽しく喜ぶ動物なのか?

 週末にグッドボーイハート福岡で犬語セミナーを開催しました。定員6名くらいのセミナーに対して今回はいっぱいのご参加をいただき、いつもより賑やかなセミナーになりました。


●犬を観察することは案外大変なこと

 犬語セミナーは犬の動画を見ながら犬のコミュニケーションを読み解いていくセミナーです。犬の行動にはうそがないのできちんと読み解く力がつけば、誰でも犬の気持ちを理解することができます。作業はいつも観察することからはじめ、次に観察した行動について分析をしていきます。たとえば、逆毛を立てているという行動を観察したら、その行動がどのような犬の状態を表現しているのかを分析していくのです。

 ところが、この犬語の見方ですが最初は混乱します。まず見ることがこんなに難しいことなのかと思うのです。ビデオを参加者に見せたあとに見たことについて質問していきます。ある人が「犬の逆毛が立っていました」と発言しても、別の人は「全く見えなかった」といわれることがあります。なぜ、こんなことが起きるのかというと、見ているところが違うからです。人はみな関心のあるところを見ているのです。犬の見方を見るとその人が犬のどこに関心があるのかがわかります。

 犬語セミナーは犬の行動を読み解く勉強会なので、まずは自分の見たいところではなく、犬語としてみてほしい行動に注目していくように練習していきます。た、回数を重ねるだけで犬の行動をかなり見ることができるようになります。専門家でなくてもできるところが楽しいところです。特に、この作業が得意なのは、観察力がある人、そして犬への思い込みを断ち切れる人です。犬を見て「かわいい!」と思ったり寄っていって触りたいという傾向のある人は少し時間がかかるかもしれませんが、犬のことを本当に知りたいという気持ちがあれば、この壁を越えるのは簡単です。


●犬はいつも楽しいだけの動物なのか?

 まず、きちんと犬の行動を観察して記録できるようになったら、次にこの行動を分析していきます。分析には犬の行動学についての知識と経験が必要な上に、この分野はいまだ不安定で疑問を感じるような情報も多いため、信頼できる情報を得ながら分析の作業を進めていきます。

 例えば、犬が逆毛を立てているという行動に対して出てきた意見にはこんなものがありました。犬が緊張しているとか、興奮しているのではないか、不安な状態なのではないかというものもありました。いずれの行動も、犬の「逆毛を立てる」状態に該当する可能性が十分にあります。緊張と興奮が入り混じった状態といえることもできるのです。
 次に、そのとき同時に表現された他の行動を組合せをしていきます。同時に、その状態のレベルについても考えていきます。どの程度の時間その行動が続いたのか、その行動の後に見られた行動とはいうふうに問い続けていくことで状態のレベルが上昇するのか降下していくのかも把握することができます。

 こうした行動を観察して分析する犬語セミナーにはじめて参加する方の中には、どの映像をみても「かわいいという風にしか見えない」「喜んでいるように見える」「楽しそう」だという意見に偏りがちです。ディスカッションを重ねていくうちに、普段の犬の様子を見ていても、犬はいつも楽しそうに喜んでいるように感じてしまい、犬が不安だとか緊張しているとか、ストレスを感じているようには見えないという感想も出てきます。
 実は一部の人にとっては、これはとても正直な感想なのです。犬が好きな人は、犬はいつも楽しんでいる、犬はいつも飼い主さんが好きという見方が先行してしまう傾向が高いと感じます。なぜなら、犬がいつも楽しそうで、うれしそうにしていると見えるから自分も楽しく幸せになるからです。逆に犬が走り回っているのをストレス行動だと見るようになると、犬を見ることは辛くなります。特に飼い主は、犬の行動に最大に影響を与える存在なので、犬にストレスを与えているのが自分だと気づいてしまうと、犬を見るだけで癒されるという単純な世界は持てなくなるでしょう。


●犬の気持ちを読み解くための道具としての犬の行動学

 単純に犬のことがかわいいと思っているだけだったのに、実は犬がいろんな状態を表現していることを知ると最初は少しガッカリしてしまう飼い主さんもいます。犬を見るだけで癒される時代は終わりますが、その代わりに犬が行動を通して表現する真実を知り、その真のメッセージに対して飼い主としてできることをする、つまり、応答するというコミュニケーションを返すことができるようになります。

 これはひとつの犬との関係性の変化のときです。犬の行動学はこうして犬の気持ちを読み解く道具として利用する科学的学問であるし、学べば学ぶほど奥の深い犬という動物の深さに触れる機会にもなります。少し難解な勉強はひとりで取り組むことは大変ですが、トレーニングクラスやセミナーを通して勉強を進めると、犬を見る世界が少しずつ変わっていきます。犬を愛することは犬を理解すること、そして犬を理解する力を人は持っているということが、グッドボーイハートの希望です。


 次回の犬語セミナーは6月25日日曜日12時~14時に七山校で開催します。



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<犬のしつけ方・動画>犬にリードをつける時のしつけ:オスワリかマテで落ち着かせることの大切さ

 飼い主が犬にリードをつけるときに犬の行動もつける側の飼い主の行動も百人百様のようです。
実はこうした作業にも、犬と人の関係を見ることができます。そして、そのひとつひとつの行動を見直すことは、「犬のしつけ」もしくは「犬のトレーニング」のひとつです。


●犬にリードをつけるときの行動を観察するとわかること

 まず犬にリードをつけるときの行動をよく観察してみます。自分の犬はどんな状態でいるでしょうか。

 じっと立っている(呼吸もゆっくり)、呼ぶとゆっくり飼い主に近づきオスワリする、呼ぶとゆっくりと飼い主に近づき立ったままリードをつけることができる。このような状態であれば、犬は飼い主がリードをつけるという行動に対して落ち着いているといえます。

 逆に、興奮して落ち着かない行動をする犬もいます。興奮してジャンプをくり返す、左右にも飛ぶ、飼い主にとびつく、飼い主に前脚をかける、飼い主が首輪をつかむと(リードをつけるため)甘咬みする、飼い主が首輪をつかむと前脚をかけてくる、うろうろしておちつかない、飼い主の膝にジャンプしてくる、飼い主に抱っこされるなどが落ち着かない行動の例です。


●リードをつけるときに興奮するのがなぜいけないのか

 まずどのような状況であれ犬の興奮行動については慎重に扱ってほしいことです。犬が飛んだり跳ねたり走り回ったりする興奮行動は、見ている人によっては楽しいと感じられることがあります。人よりも動きが早く躍動力も動物的であることが人を楽しませる理由にもなっているからです。反面、過度な興奮は犬のストレス値が上昇しているというシグナル(コミュニケーション)でもあるので、それを受け取って犬が落ち着くように環境を整える必要があります。そしてその落ち着かせのための環境整備は飼い主の責任です。

 犬がリードをつけるときに興奮したり多動になる理由はいくつかあります。ひとつは犬が「リード→散歩」という連想学習をすることです。つまり、犬はリードを見せると散歩に行くことを知り興奮するということです。この犬の興奮を「うちの犬は散歩が好き」と思っている人もいます。本当にそうでしょうか。
 事実については犬の散歩行動を細かく分析すればわかります。リードを見せると興奮する犬は、社会的に緊張状態にあり散歩を連想して興奮しているか、日常的な拘束時間が長すぎるため外に出る社会的行動に興奮しているなど他にもいろいろと興奮行動の理由を考えることができます。


●リードをつけるときに犬が甘咬みしたり腹部を見せるのも問題なのか

 リードをつけるときには首輪に一定時間手を触れる必要があります。首輪に手を触れていることで短い時間であれ犬は動きがとれなくなります。犬が首輪をつけることに対して協力的であれば、犬の方が少しの時間じっとしてくれています。ところが、飼い主がリードをつけるという行為に対する抵抗や、一定時間飼い主が自分の首輪をもって動きを止めることにストレスを感じる犬は、その手を払いのけようとして甘咬みします。甘咬みといっても軽くくわえたり、咬むまねのようなものから、結構強く歯をあててくる犬もいます。こうした犬の甘咬み行動を飼い主は「遊ぼうとしている」といって放置してしまいますが、これはとても危険なことです。こうした行動のひとつひとつが飼い主と犬の関係性をあらわしているからです。飼い主に甘咬みをする犬は、それが抵抗であれ甘えであれ、いつかは衝動的に牙を当てる可能性が十分にあるからです。

 リードをつけるときに犬が腹部を見せたりひっくりかえったりしてジタンダを踏む行動もひとつの興奮行動です。こうした犬のほとんどは、甘咬みをする犬達と同じように飼い主が犬の首輪を少しの時間持ち犬が静止をしているということができません。また、飼い主の膝にのってきたり、飼い主の股下に入り込んだり、体を摺り寄せたりする犬達は、飼い主に依存的な関係を要求しています。こうした関係性は動物にとってストレス値を上げる結果となるため、数年という長い時間を経て自分を攻撃するもしくは他者を攻撃するという攻撃行動や強いおびえ行動につながる可能性も十分にあります。


●落ち着かない行動を叱っても効果はない
※動画で確認する「リードをつけるときは犬も人も落ち着くということ」

 犬が落ち着きをなくして興奮していたり、依存的な行動をしているときに叱っても効果はありません。犬にリードをつけるという行為が必要なら、それについて犬が落ち着きを取り戻せるように練習していきます。そのステップには個体差があり、飼い主さんのできるところからというになりますが、食べ物があったらオスワリするという賄賂的なフードの利用はしないでください。日常生活が問題なく送れている犬ならどの犬も食べ物をちらつかせなくても座ることはできます。
 
 以下の動画は七山校に来ていた柴犬くんに協力してもらって撮影しました。
マテの合図をしなくても動かないのですが、わかりやすいようにあえて「オスワリ」と「マテ」の号令をつけています。
舌なめずりをしていますので落ち着かせ行動が働いています。飼い主さんが近くでビデオを構えていて何かいつもと違う感じは受け取っていたようです。

犬にリードをつけるという平凡なことですが、ご自分の日常と違いがあるのか以下の動画で確認してください。

動画「リードをつけるとき」


 犬のしつけは犬と人の関係性の構築が基本です。それにはごほうびと罰が自然と伴うこともありますが、フードを使ったごほうびトレーニングには落とし穴があります。食べ物は動物にとって強い強化の道具(行動を学習させやすい道具)です。使い方を間違えると、犬のおびえや攻撃性を高める事もありますのでぜひ注意してください。


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