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犬を見る眼、思い込みがつくる「歩けない」という事実

今までにいろんな犬のことについてご相談を受けた内容の中には、明らかに思い込みによって犬の行動を制限してしまうということがいくつもありました。犬の行動に制限がかかることや犬が拒否していることのすべてが飼い主の思い込みだということではありません。ただ、ビックリするような思い込みによる制限というのは、本当にあるのだなという事実をご紹介します。

以前、盲導犬育成施設のパピーウォーカー指導を担当していたことがあります。パピーウォーカー制度についてはずい分とメディアでも紹介されていますのでご存知の方も多いでしょう。パピーウォーカーは盲導犬育成団体が繁殖をしたり盲導犬候補生として準備した生後2ヶ月齢ほどの子犬を、1歳くらいまで家庭の中で育てていただくボランティアのことをいいます。

パピーウォーカーのご家庭には必要な条件がありますので、申込後も書類の審査や家庭訪問での環境チェックなどを経て一定の条件をクリアされた方にお願いすることになります。子犬を預けるときには、子犬飼育規定がありますのでその内容に沿って育てていただき、私が担当していた当時は月に1回の家庭訪問もしくは講習会を開催して、勉強を重ねていただいていました。子犬育てについての質問は随時受け付けしていますが、家庭訪問や講習会の際には指導員が子犬の成長が順調かどうか、身体的な面から社会的な発達も含めてチェックが行われます。

この講習会のときにパピーウォーカーさんのおひとりから相談を受けました。
「自宅の家の前から道路に出るまでに2メートルくらいのわずかにスロープがあります。そのスロープを歩くことができないので、いつも抱っこして道路に出し、帰りも抱っこしてスロープを越えています。問題ではないでしょうか。」とのことでした。
家庭訪問をしていますのでお家周辺の状況は頭の中に入っています。確かに家の前に2歩くらいで渡れるスロープがありました。地面はコンクリートで安定はあり特に問題のない環境でした。

犬は確かにコンクリートなどの固い路面の坂道があまり得意ではありません。子犬はバランスが悪いため、脚に力が入ってしまいます。固い路面では指先や爪を地面に食い込ませるストッパーが働きにくいため、子犬は坂道になるとひっぱりが強くなったりストレスにより拾い喰いをしたり地面を臭いながら歩くような行動をすることもあります。

このスロープを全く歩けないとなると確かに問題です。

ちょうど講習会を開催していた場所の外側に、車が通行する道がスロープになって作られていました。
昔はビデオみたいな機器はありませんでしたらから、実際に歩かない行動を見せてもらうために、試しにこのスロープを使ってみましょうということになったのです。

子犬をつれたパピーウォーカーさんがスロープ近くまで平面の地面を歩いていきます。いざスロープにさしかかると子犬は全く動かずパピーウォーカーさんはリードいっぱいまで離れて呼びますがそれでも動きません。
今度は下り坂ではどうだろうと子犬をスロープの途中まで抱き上げて移動させてもらい、そこから下りのスロープを歩いてもらいますがやはり子犬は動きません。

ところが見ていると子犬は動こうとして動けないという行動を全くとっていないのです。
パピーウォーカーがスロープにさしかかると止まり、そして歩こうとチャレンジもしないのでバランスを崩すこともありません。これは歩けないのではなく歩かないだけではないのかな、という疑問でした。
それでリードを持つことを私に代わっていただき、子犬にいっしょに歩くことを促しました。

すでに結果はおわかりでしょうが、スロープを普通に歩行します。上りも普通に歩き、下りも普通にいっしょに歩いて下りてきます。途中で方向を変えることも可能です。
もちろん、見ていたパピーウォーカーさんはビックリです。私がどんな魔法を使ったのかと思ったでしょうが、私は特別に何もしていません。

「歩きますね。」といって再びパピーウォーカーさんにリードを渡しました。
子犬は何事もなかったかのように(子犬にとっては何事もなかったのでしょうが)、パピーウォーカーさんとスロープを歩いていました。そのときのパピーウォーカーさんは本当にビックリしたという表情でした。

おそらくですが、最初はスロープに多少抵抗を示したのでしょう。リードをつけての歩行になれていないのに、テリトリーを離れる緊張や、坂道というなれない場所であるという事実はあります。そこでパピーウォーカーさんがその場所を抱っこするという処置を行ったため、子犬にとってはここは抱っこする場所という風に学習した可能性があります。さらにパピーウォーカーさんの方には、このパピーはスロープを歩けないという思い込みモードにはまってしまい、どこかで犬に制限をかけた可能性も十分にあります。

犬の世話をしている飼い主やパピーウォーカーが、犬ができないと思っていることが実は普通にできたりすることだという事実はたくさんあるのです。ハウストレーニング中に、ハウスには絶対に入らないし入れると暴れるといわれて連れてこられた小型犬を、私がハウスに入ることを促したあとは、全く吠えずに静かにしていて、その後は自宅でも車でも入り口を閉めても落ち着いていられるようになったという例もありました。

思い込みという世界は、犬を見る眼だけではないと思います。
他にももっとたくさんの思い込みで自分を制限したり、周りを制限していることがあるのかもしれません。犬にできないことを期待するのはエゴですが、犬ができることを最初から認めないことも犬への信頼を損うことです。

犬への思いが強すぎて思い込みが激しくなる、そういうときはどこかで犬がやりたくないことを楽しんでいると思い込むことも起きてしまいます。犬の行動は真実です。行動をしっかりと見ることができるようにこれからも勉強します。



dav






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