グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

トップページ
お電話でのお問い合わせ
お問い合わせフォーム

よく動く元気な犬が活動的とはいえない理由:犬の自己抑制力と行動の関連性を知ること

 犬の行動範囲は活動性について飼い主さんに質問をして犬の行動についてもろもろの状況説明を聞く中で、犬の見方の違いについて感じることがあります。たとえば、犬がよく動いて活動することが、活発であり積極的な犬なのだと思っていることです。こうして文字に書けば、動くことが活動することなのだから、積極的に活動するので間違ってはいないのではないかと受け取られるでしょう。しかしこうした犬の行動ももっと綿密にみていきその行動の目的や達成しているものとつなぎ合わせると以外にそうでもないということに気づきます。今回は犬の必要性や発達に関する情報について知っていただきたくためのヒントを提供します。


● 野生動物の行動範囲からみる動物の性質

 七山校での早朝の出来事、朝の5時半くらいにガサガサと窓の外で動物が歩く音が聞こえてきました。あ、またアナグマが幼虫でも探しに来たのだろうなと、音のする方に視線を移します。ぼんやりと茶色の動物のシルエットが目の中に入ってきました。サイズが大きい?アナグマではなくイノシシだったのです。

dav

庭先で探索するイノシシ




 大きいといっても成獣になると背中までの高さが1メートルくらいになるイノシシです。庭先にうろついていたイノシシは60センチくらいの、まだ駆け出しのイノシシでした。この春に生まれて親元を離れ単独で行動できるようになったのだろうと推測します。

 野生動物は人を恐れています。特に、イノシシやアナグマは食用として狩られる一方で畑を荒らす害獣として扱われています。人が畑を持って以来の長い歴史の闘争です。そのため、イノシシは人の暮らす家周辺を日中にうろつく事はありません。夜間になると人間の屋外活動が停止するため、その時間を利用して危険地域をうろつき始めます。

 このイノシシがいた時間はすでに陽が登り、あたりは明るくなっていました。のん気にうろつくのは危険な時間帯です。しかも、まだあまり経験値のない若いイノシシが近付いて安心できるような場所でもありません。庭と裏山の間の草刈が追いつかず、多少の茂みができてしまったことで、イノシシが経路を間違ったと考えることもできます。

 そして、この積極的に活動するイノシシの性質ですが、ある面では利益を得る可能性が高い行動です。家の周囲には柿や栗などの木もあり、そろそろ青い実が落ち始めています。もみじの根や若い木々の上に這うむかごの根は山芋で、イノシシの大好物です。山奥では得られないご馳走を食べることのできるからです。

 一方で危険性を伴う行動でもあります。動物の行動範囲は、好奇心や積極的な態度、欲求の高さにより活動性の高まりによって広がる反面、警戒心や慎重な態度、欲求を抑える抑制力によって制限されています。結局のところ、冒険心の強く欲が高すぎて危険を顧みず行動をすれば、その動物は事故や事件に巻き込まれ子孫を残す前に死ぬことになります。こうして淘汰がかかるため、自然環境に自律的に生活する野生動物は、一定の警戒心によって行動を抑制する力を備えています。こうしたブレーキがきちんと働いていることが、生きていくために大切だということを受け継いでいるのです。


● 家庭犬にみる抑制力の低さ

 それでは、家庭犬の活動性はどのように変化しているでしょうか。まず、愛玩化によって活動性は極端に低くなっています。愛玩として人が求めている犬は、抱っこしたり、その辺に寝そべらせたりしているだけで、活動しない犬を良しとするからです。いわゆるお座敷犬といわれ、犬用のマットや座布団に寝そべって一日を終えてしまうような犬や人に抱っこされてじっとしているような犬を求めているなら、それは愛玩犬といいます。

 また、人為的な繁殖による身体構造の変化によって、犬の本来の活動場所であった斜面の上り下りすら難しくなっています。うちの犬は上がったり下りたりできると思っている方も犬の動きをよくみてください。体のサイズやバランスの悪さから犬はよく飛び跳ねるように動きます。段差を歩くのではなくぴょんぴょんと飛びます。大きなサイズの犬も四つ足のバランスの悪い状態で立っていることができないからです。足の運びが速くなり、階段もとても早く上り下りをします。逆にバランスがとれる犬は階段の上り下りでもゆっくりと途中で止まることもできます。数歩でしたら後ろに下がることも可能です。

 これらの活動性の低さと身体能力の変化にあわせて変化してきたのが、犬の抑制力の低さです。本来の動物は活動性があり、身体能力も発達しているが、抑制力が働かないと淘汰されてしまうという説明をしました。ところが、犬の場合には人為的な繁殖や管理方法によってその活動性が低下し、身体的な能力も明らかに低下しました。しかし同時に抑制力も低下してしまっていることが以外に理解されていません。

 日常的に管理された場所で行動範囲も決められて活動性も低くなっている犬であれば、室内では動くことが少なくなっています。屋外では常に囲いかリードで制限されているため、自分で行動制限を与える必要がありません。家庭犬たちは抑制というブレーキ機能を使わないまま成長します。このブレーキのない動物の危険性は、リードが外れてしまったり、家の戸口がたまたま開いていたときに事故となります。犬は制限された場所から走り出してしまい、走り出した場所で見知らぬものに接近しすぎてしまいます。

 急に走り出すこうした犬の行動は、屋外だけでなく室内でも見られることがあります。インターホンが鳴ったとき、来客が来たとき、何かいつもと違うものが部屋の中にあったとき、いつもはしまっている戸口がたまたま開いていたときなど、におもわず駆け出してしまうのは、活動性が高いからではありません。これは衝動的な行動なのです。この衝動的な行動をとっているときは、犬が周囲の環境の変化や接近した対象に対して正しく認知を進める作業は行われません。衝動的な行動をしているときにはかなりテンションが高まっているからです。


 ● 家庭犬の抑制力を育てることはできるのか?

 抑制力の働いていない衝動的な行動は活動性の高さとはいえません。わかりやすく言えば、これらの衝動的な行動は、犬のストレス性行動といえます。つまり、犬はストレスの状態を強めていこうとしている状態なので、外部からのなんらかの制御を必要としている状況にあるということです。

 この制御機能が備わっていない動物に対して、その機能の発達を求められるかどうかは、個体差がありはっきりといえません。もう少し正確にいうと、だれもその犬の失われた機能の発達を求めていないのですから、実際どうなのかということはわかっていないということです。

 現実的に考えれば、人為的な繁殖によってゆがめられた犬の機能性を、経験を通して復活させることは、とても難しいことだと思います。犬には冒険をさせることもできず、環境を制限された室内やリードがついている場所や、安全な囲いの中で行動させることを人が望んだ結果です。犬が本来もつ能力と機能性の高さを思うと、こうして犬が変化していくことはとても悲しいことではありますが、この流れはしばらく続きそうです。

 しかし、人は考えて変化する動物です。人という動物の変化にはまだ希望もあります。尊敬するジェーングドールの掲げた3つの理念のひとつは「hope」です。人という動物を信じることができなくなったとき、動物の美しさはすべて失われるのかもしれません。


2015082811010001.jpg