グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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恐怖行動<おびえる犬>への接し方と依存と社会性の違いについて

犬を飼っていない友人と話をする機会を得ました。
友人が言うには彼女が知人宅を訪ねたときに、保護施設から迎えた小型犬を飼われているご主人が、犬をずっと抱っこして散歩にも行けないし奥さんが触ることもできないような状態だといのうです。ご主人がいうには犬は殴られるなど虐待を受けていたのだというのですが、友人は散歩も抱っこで常にビクビクとしているような犬にはしてあげられることはないのだろうかと感じていたらしいのです。

こうした「おびえる行動を示す犬」に対して少し誤解が生じ、その接し方が問題を難しくしていることがあります。

犬をペットショップで購入するという方法とは別に、保護施設などから引き取るという選択があります。少しずつですが動物保護施設や動物愛護団体などから、飼い主が飼えなくなった犬や心無いブリーダーが放棄した犬を家族として迎えてくださる方も増えているようです。こうした犬を保護施設から迎える選択が増えることを願っていますが、同時に注意しなければいけなこともあります。

今日は、施設に収容された犬を犬を保護施設から迎えた飼い主さんや一時預かり先のご家庭で、特に注意していただきたいことについてお話しします。

保護された犬の多くは「おびえる」行動を示すようになりやすいという事実があります。
この行動の要因について分析していきましょう。
「おびえる」行動を具体的に説明すると以下のようなものです。

震える
硬直する
尾を巻き込む
逃げる
隠れる
手をかけてくる
抱きついてくる
とびつく
体を接触させてくる
耳を倒す
小さく唸る
失禁する


犬がこのようなおびえ行動を表現しているのに接する飼い主さんに対して、犬がどのように行動しているのかを尋ねると、ほとんどの方が「「ビクビクしている」とか「怖がっている」という風に答えられます。冒頭の友人が接した飼い主さんも同じような感想を持っていたようです。

これらの行動の中には恐怖行動が含まれています。犬が恐怖を感じたときに表現するコミュニケーションの方法です。尾を巻き込む、失禁する、硬直する、震えるなどは動物病院ではよく見られる行動です。動物病院が悪いのではなく、犬という動物は何か独特の雰囲気を察知してしまうということなのでしょうが、動物病院で一度も処置を受けたことのない犬でもこのような恐怖行動を示すことがあります。これらの行動は恐怖行動であり犬が怖がっていると人が受け取るのは当然のことですしその表現方法についても誤解はありません。

上記にあげた行動リストをもう一度見てください。恐怖行動の他に少し違う傾向の行動も含まれています。
「逃げる」という行動は恐怖行動と同時に出現しますので、逃げる行動も恐怖行動と同じ扱いをうけやすいものです。上記の動物病院の例でも、診察台の上では震えたり硬直している犬が、診察台を下りると逃げようとする行動をすることがあります。犬は同じ状態ですが状況が変わると「逃げる」という行動に転じるということです。

リストには恐怖行動や闘争行動とは少し違う行動もあげています。例えば「抱きついてくる」「体を接触させてくる」という全く別の行動が入っているように見えます。恐怖行動を示している犬が、飼い主もしくは特定の人に対して表現している行動なので人はこれらの行動を「怖がっているのね、私に助けを求めている、かわいそうに」と犬を抱きしめたりさすったりしているのをよく見かけます。
この対応には大変問題があります。これらの接し方が犬に与える影響については、のちほど説明します。

これらの方向性の違う二つの行動は犬の同じ状態です。対象や事象によって反応が違うというだけで、犬の状態としては同じことになります。ひとつは「逃走行動」ひとつは「闘争行動」と、どちらも犬のストレスを表現する行動です。犬が環境から受ける刺激(音、ものの存在を知ること、対人、対犬などいろいろ)に対してストレスを表現います。犬はストレスを感じている状態であるということがわかります。

このストレス行動は犬の日常生活の中では見られるものですが、これらの行動が多発する状態になると犬は常にストレスにさらされていることになり、そのおびえるような行動も日常化していきます。

ここで重要な行動の見方の間違いについてあげます。
恐怖行動やストレス行動として表現される犬のおびえる行動を、怖がっている、ストレスを感じていると受け取ることは間違いのないことは前述しました。ただ、この犬の行動に犬の感情を重ね合わせるようにして対応してしまうと、犬の今後の行動はますます難しいものになってしまいます。具体的には問題のある犬への接し方としてあげた「怖がっているのね、かわいそうに」と犬を抱きしめたりさっすったりしてなだめる人の対応です。
これは犬を擬人化したことでおきてしまう対応です。すべての人が同じようにするかどうかは不確定ですが、怖がっている人がいたらさすってなだめてあげる傾向は人という動物には多少なりともあります。子供が怖がっていたら、かわいそうにと撫でたり抱きしめたりすることでしょう。

犬に対して接するときにはまず犬が人と同じような行動をしたとしても同じような感情を持っているかどうかはいつもグレーの状態でいてほしいものですが、もし同じ感情を持っていると断言される方がいたとしても特にそのこと自体は問題ありません。
問題なのは、こうしたなだめる接し方をされ続ける犬が、その後どのような社会性を身に付けていくのかという経験学習です。おびえている犬をさすったり抱きしめてなだめる人の話を聴くと、「人の愛情を知ればこの犬も心を開いてくれる、そして人が大好きになるに違いない」と思うことからそのような接し方をされているようです。
ところが現実はどうでしょうか。特に子犬のころからこのような接し方をされて成長した犬の社会的な行動について冷静に観察してみてください。
それらの犬たちは次のような行動をしていないでしょうか。

特定の人にはなついているが特定の人飛びついて甘える
特定の人抱っこをせがむ
その人がいないと落ち着かなくなる、鼻をならす

と特定の人には甘えるような依存的行動を見せ始める反面、他の人にはおびえや吠える(逃走もしくは闘争行動)をするようになり、周囲の物音にも敏感になり警戒吠えも高くなり、他の犬にも吠えたり逃げるなどの行動を示すようになります。
これは冒頭の友人があった飼い主であるご主人がいつも抱っこしているのに、奥さんにはなつかず部屋の中を逃げ回っている状態と同じです。

こうした状態にいたったときに犬になつかれたように思ってしまう特定の人(飼い主もしくは保護犬の預かり者)は、この犬は他人は信用しないけれど自分にだけ心を開いてくれる、小さいころに怖い思いをしたのだから他人を怖がるのも無理はない、といったいろんな理由をつけて、犬の社会性が発達しないことを正当化してしまいます。

実はこれは大きな勘違いです。
わかりやすくいえば、特定の人にはなついているけど他者には逃げたり攻撃したりする犬の社会性は発達していません。特定の人に対する行動は社会的に開かれ発達した社会性のある行動ではなく、依存的、執着的行動です。その人がいないと落ち着かなくなる、鼻を鳴らす、クレートから出てこないのに、その人が来るととびつく、接触してくる、膝にのる、手をかける、なめるなどが起きるのです。人に依存したり執着する行動は、人に対する社会性のある行動と間違えられることがあります。なぜなら、これらの依存行動を「わたしのことが好き」と勘違いしてしまうからです。

これって社会性が発達するという社会化じゃないの?じゃあ何が社会化なの?と思いますか。
人におびえている犬がいてその犬が特定の人との接触によりその人と社会的な関係を築いていき、その犬の社会化が少し発達してきたとします。実はその社会化は、他の社会的な経験を後押しするものになるのです。本当の社会化とは、ひとりの人に接して人に対する社会性が発達をすると、別の人に対する社会的行動にも変化を及ぼします。つまり別の人に接するときのおびえ行動が減っているという行動の変化を見ることができます。特定の人との関係がテリトリーを同じくするグループ内で行われたものであれば、周囲の物音や刺激にたいするおびえも減ってくるため、その犬の社会化の過程を十分に観察することが可能です。

依存や執着と社会化は違う。

社会性という発達についてもう少し客観的に見ていくと違った風景が見えてきます。

付け足しになりますが、保護犬がおびえを示すようになったのは、必ずもたたかれるなどの暴力による虐待を受けたわけではないことがあります。中には、元の飼い主のところで飼育放棄状態になり、ケイジから出されず満足な餌を与えられる事もない経験を経た犬もいます。。暴力的ではないのですが精神的ストレスを与える虐待であり、こうしたネグレクトという状態の方が多数発見されています。
また、そうした経験がなくとも、保護施設や愛護団体などで多数の犬を収容するような環境で成長した犬の一部はおびえを示すようになります。人がどのようにやさしく接しても、その収容施設という環境が犬に与える影響が強いため、犬はストレス過多となるからです。動物の収容施設といってハード面でストレスをできるだけかけないようにと建設された施設は国内でもごくわずかしかありません。新しく建設された動物保護施設を見学したときも、せっかく莫大な資金を投入して施設を作ったのになぜこのような構造なのだろうかと疑問を感じることばかりです。資金のない施設では工夫を凝らして環境整備を行っています。それでも、社会化の確立していない子犬がそのような多頭を飼育する施設に収容されれば、必ず影響を受けてしまいます。
子犬、特に生後4ヶ月齢までの犬に必要なのは社会性を発達させる家庭的環境です。

保護犬を迎えられた方でおびえのある犬の社会性について真剣に取り組みたい方は、ぜひ犬の行動を観察して行動から犬の状態を理解することを身につけその犬の社会性の発達についてサポートをしていただくことを提案します。



※ブログの更新について→長文の行動学に関するブログを理解していただくためには数回くり返し読んでいただく必要がありますので、翌日のブログは写真のみ、もしくはお休みさせていただくことがありますのでご了承ください。
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