グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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犬語セミナーに学ぶ犬の世界:犬はただかまってほしいのではない、本当の犬の欲求とは何か?

 週末はグッドボーイハート福岡校で犬語セミナーを開催しました。飼い主さんだけを対象とした犬のコミュニケーション=行動学を学ぶセミナーです。暑さの中たくさんの方にお越しいただきありがとうございました。セミナーの追加補足を含めて、犬のコミュニケーションについてお話します。


● 犬の要求行動にはどんな行動があるのか?

 犬はいろんな意味で、人がいないと成り立たない生活を送っています。どんなに精神的に自律していると感じられる犬でも、必要なものが必要な時期に与えられないとそれを要求する行動をします。

 犬にとって人といることで一番大切な理由はゴハン(食べること)です。昭和初期に犬たちがまだ係留されることもなく家の付近をうろうろとして過ごしていたときもゴハンの時間になるとちゃんとそれぞれの家に戻っていったものです。
 
 中には係留される犬も夜中になると首輪抜けに成功して放し飼いを謳歌していた犬もいたのでしょうが、こうした犬たちも朝方のゴハンの時間になるとそれぞれの庭に戻って再び係留されるのでした。この時代の犬のゴハンは、朝方もしくは夜遅い時間でした。残飯の処理をかねていますから人の一日の食事が終わった後だったからです。今の子ども達は見ることのない遠い昔の風景です。

 話を元に戻します。今は係留されているか庭の囲いの中、室内の中に軟禁状態で管理されている犬たちにとっては、自由な犬たちよりも強くゴハンを待っています。ゴハンのときにはそれぞれの要求行動を見ることもできます。

 ゴハンを要求する行動にはこんなものがあります。ジャンプしたりワンワン吠えたりして興奮する行動をする。鼻を鳴らしたり人について回る行動をする。人にとびつく。飼い主をじっとみている。飼い主に手をかける。

 さらに興奮するとこんな行動に発展します。吠えるからギャーというような奇声に変わる。クルクルと回る。部屋の中を行ったり来たりする。ハウスに入れられるとハウスの入り口をガリガリと手でかくなどの行動です。

 要求行動はストップが入らないとそのまま興奮行動へと変化していく傾向が強いのです。なぜなら要求が通らない状態が続いてしまうわけですから、ストレス値がほんの少しの時間に上昇してしまいます。そのため要求行動がとびつく吠えるなどの興奮行動に発展するとエスカレート式に行動が強くなり、その結果ゴハンにありつけるとなると、犬は意図せずこの行動を毎日学習してしまいます。

 これに対して、ゴハンの前にじっとオスワリしたりフセをしてゴハンの時間まで待つとか、ハウスに入って静かにゴハンを待っている犬たちがいます。ゴハンが来るまでのほんの少しの間、犬は自らの要求と興奮を抑えてその時がくるのを待ちます。いわゆる自制状態になります。自制の結果、ゴハンにありつけます。自制しているときには、飼い主を観察することもできます。そのため「だれが自分にゴハンを与えているのか」を理解することもできます。

 興奮している犬はただゴハンの方しか見ていません。そのため誰にゴハンをもらっているのかというのもあまり理解していません。いつも興奮することでゴハンをもらえ、要求を通す状態を強くしてしまいます。ゴハンの与え方というよりは、犬がゴハンをもらうという行動に対して「犬のしつけ」として厳しく指導するのは、犬にきちんとした理解力をつけさせ関係性を築くことが犬の安定につながっているためです。


● 要求行動を受け入れて甘えさせても犬には安定はない

 ゴハンを与える以外にも、犬が人に要求する行動はたくさん見られます。特に室内飼いの犬では一日中こうした行動が見られます。飼い主に手をかける、鼻を鳴らす、とびつく、口をなめる、膝の上に乗ってくる、お腹を見せるなどの行動は、飼い主さんに対する要求行動です。よくみなさんが言われる言葉では「かまってほしい」という行動であるともいえますし、甘え行動ともいわれます。

 「かまってほしい」というのは、犬がひとりでは何もすることがないという室内での退屈な犬の生活を表していると同時に、別の意味では飼い主に構ってもらわないと落ち着かないという依存的な関係が強くなっているという不安定さのメッセージでもあります。犬のかまって行動はそのうち飼い主の膝の上にじっとしていることで安定をみたように勘違いしてしまいますが、実はこれは真の安定ではありません。

 飼い主の膝を居場所とする犬は、飼い主が動いたり他の人と接触することを阻止しようとします。飼い主の後ろをついて回る、とびついて要求をくり返す、鼻をならす、家族や来客に吠える、帰宅すると興奮する、そしてストレスはさらに上昇し、ついに誰かに咬み付くという結果になるでしょう。

 要求行動が高まり、適当に相手をしてごまかそうとしても犬の興奮がおさまらなくなることがあります。犬が飼い主に対して甘咬みする、髪の毛にかみつく、洋服にかみついてくるという行動をエスカレートしているときには要注意です。ここまで関係が悪化してしまうと強く叱っても犬は吠えたり飼い主に威嚇したりして全くいうことを聞かなくなります。


● 犬の要求行動や興奮行動を叱ったら吠え返してくる犬、なんでなの?

 飼い主が「ダメ」と叱ったら吠えたり威嚇してくるのはなぜでしょうか?ずばり、自分と親の関係や、会社の上司と部下である自分の関係に当てはめてみてください。自分が間違えたり横柄な態度を示したり暴言を吐いたりしたとして、そのときに受けた注意を受け入れられるか、受け入れられなくとも一旦下がって少しくさくさしてでも、自分を抑えることができるのは、相手に対する敬意かなんらかの関係性が生まれているからです。そうでなく、相手が全く普段から自分の指導も相手もせずに自分のことだけに時間を使っているのに対し、犬の方も飼い主と同じように好き勝手に振舞うことを叱られれば吠え返す気持ちもわかります。

 では、どうすればいいのでしょうか?というのがみなさんの知りたいところだと思います。客観的に考えればとても単純なことなのです。犬は飼い主とのより良い行動を望んでいるだけです。なぜならそれが自分の安定につながっているからです。犬は社会性の高い動物です。同居する家族である人とやらなければいけないのは社会的な関係を結ぶことです。それは、放し飼いにされていて、どの家でゴハンをもらっても良かった時代とは違います。犬は飼い主に行動を制限されているため飼い主なしでは行動できない動物になってしまったのです。犬が飼い主と社会的な関係を築いていくことが、犬にとっても社会とのつながりの扉になっているはずです。

 具体的にはどうしたらいいのかというと、まず犬と過ごす時間を増やすことが一番です。散歩、遊び、室内でのルールを教える、外飼いの場合にもフセマテやオイデができるようになるのは、飼い主との関係の上で成り立っています。散歩、遊び、ルールを教えることの中には、最初は飼い主が主導的な立場であることをわかるようにしてください。教えるという行為自体が主導権を握っていますから自然にそうなっていくはずです。ただ、リードをもって犬に好き勝手に振舞わせた散歩では、あまり意味がないどころか、せっかくの犬との時間が関係性を難しくする時間になってしまうということです。


● 犬との暮らしで飼い主に欠く事のできない大切な二つの学び

 そしてその犬との関係作りに欠かせないことがあります。それは犬という動物を犬として理解する必要があるという飼い主側の必要性です。犬として理解する方法のひとつに、犬の行動やコミュニケーションに対する理解を身につけるという学びがあります。次に、犬の社会性について理解を深める必要があります。たったこの二つのことに対する理解だけなはずなのに、なかなか理解が進まないことがあります。理由は、最初に思い込みがあるからです。「犬は人のことが好き」だと思い込んでいる方は、まずそれを捨ててみましょう。そして、「犬から信頼される飼い主を目指す」と言い換えてみてはどうでしょうか。

 犬の行動やコミュニケーションについては、犬の行動を撮影したビデオを見て学ぶのが一番です。肉眼だと見落としていることがたくさんあるからです。今回の犬語セミナーでは七山校でお預かりクラスを利用していただいたときに撮影したビデオも使用しました。家庭とは異なる環境で、来客と対面して遊んでもらうビデオなどですが、普段の自宅での来客に対する行動とは全く違う風景に参加した飼い主さんも驚かれていました。犬に安定した基盤である環境を与えると、犬はさほど興奮することなく人と接したりコミュニケーションをとることができるようになります。

 忙しい中に癒しを求めて衝動的に犬を飼ってしまうと、犬を飼ったら癒されるはずだったのにという不満がたまってしまいそれが犬にもわかってしまいます。ただ犬を見たりなでるだけの道具として使うことは、犬を傷つけるだけでなくそれをした人も傷つくことになります。なぜなら、そこには犬の幸せな空気は流れず、人はそのときは気づかなくともきっといつかそのことに気づいて苦しい思いをされるからです。

 だから、犬の行動に何か問題を感じるなら、まだ大丈夫です。まだ犬は飼い主とのより良い関係を求めていますし、これから時間をかけてその関係を良いものに変えていくことができます。犬は犬なのです。犬の権利などを主張するつもりはありません。ただ、犬との暮らしを関係を通して楽しんでください。それはドッグランやドッグカフェにはありません。あなたの生活の中にあり、そしてそれをひとつひとつ変えていくだけのことです。どこまで変化していけるのか、どこまでも楽しんでください。



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Posted in クラスのこと, 犬のこと

犬も夏休みが欲しい:避暑地代わりに利用していただく山間での預かりクラス

 グッドボーイハートでは預かりクラス(犬のお泊りクラス・ドッグホテルなどともいわれます)を提供しています。一般的にはドッグホテルという言い方になりますが、グッドボーイハートはドッグスクールですから、どんなときにも学びをという姿勢を貫きとおします。犬のお預かり時にもいっしょに成長しましょうという姿勢を持って犬のお世話をさせていただきます。

 ● 本当に涼しい七山の夏

 今こうしてパソコンに向かっている昼前の時間、博多にいれば窓を完全に閉ざしてエアコンを26度に設定しなければいられないような季節ですが、ここ七山ではエアコンも扇風機も必要ありません。室内の温度は25度、外ではセミがミンミンとせわしなく鳴いている夏の風景ですが、室内と日よけを張ったテラスには少し冷たい風が通り抜けていきます。

 訪れる人の大半はその涼しさにビックリされます。なにしろ標高が500メートルな上に、山の陰に位置するように家が建っていますので、冬は大変寒いのですが代わりに夏は本当に涼しいのです。昔の住所は唐津市池原山影となっていましたので、まさしくそのとおりです。

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● エアコンでは不健康になる動物の体

 自分も博多の中心部で育ってきました。小学生の頃には母親がすでにアスファルトになっていた家の前の小さな道に打ち水をしていたことを懐かしく思い出します。そのうち水でわずかな涼しさが戻ってきたことを懐かしく思い出します。しかし40年前と比べると、明らかに都心部の気温は動物が耐え難いほどになっています。

 この暑さの中、大半の犬を飼うご家庭ではエアコンは欠かせません。留守番のときにもエアコンを犬のためにつけてくださる家庭が増えたことを少しホッとしています。最近ではスマートフォンでエアコン温度の管理もできるようですから、長時間の留守番になる犬のためにはそうした配慮はしていただきたいのです。

 こうしてエアコンという文明の力に頼るからといって動物が健康的に過ごせるわけではありません。身体的感性の落ちている人でも、敏感な方はエアコンをつけていると体がだるいとか頭が痛い、気持ちがぐったりするヤル気になれないなど、身体的不調だけでなく精神的な不調を感じられることもあるでしょう。単純に外気温と室内気温の差が出れば出るほど体の機能調整が不安定となります。外には全く出していない犬であっても、太陽の位置は特別な機能を通して感知しているはずです。さらにエアコンでは体の表面温度は下がったように思えても体の機能を働かせることがなくなるため、犬は不具合を生じます。

 これに反することになりますが、動物の飼育管理にあたって完全管理は動物を長生きさせるという事実はある程度立証されることでしょう。これは人についても同じことです。病院などの完全管理されている場所の方が、自宅で療養する人よりお様々な管理によって長く生きるとは思います。ただ、その生きるという姿が、活き活きと生きているのではなく、ただ生かされているということであれば、それはもやは生きているとはいえません。エアコンという設備によって暑さを乗り越えている犬たちの瞳から輝きが失われてしまわないように、この季節にぜひお願いしたいことがあります。それは、犬にも夏休みを与えて欲しいということです。

● 犬も夏休みをとろう、生かされることよりも生きることを選ぶために。

 実はわたしもとても敏感体質なもので、エアコンがあまり得意でないため、限界を感じると多少の時間でもこの季節は七山に戻るようにしています。身体的な不調だけでなく、精神的にも不安定になるのを自己調整するために自分にとって必要なことだと感じているからです。

 そして、この時期はできるだけ犬たちを数日でも七山の健やかな気候の中で過ごしていただけるようにと、七山滞在時間を増やしています。夏休みのお預かりクラスのご希望があれば、そちらを優先してスケジュールを組立てたりもしています。それは、その時間が犬たちが生きるためにとても大切な時間だと感じるからです。仕事上、犬の表情や犬の瞳や毛質の状態を見れば、犬がどのように暮らしているのかがわかってしまいます。その中には仕事で培った勘というのもありますが、刑事ドラマの勘のようなものでしょうが実は案外信頼できる情報です。シャンプーやカットをきれいにしてもらいよい香りがして、整備された食事によって体型を保つ大変可愛がられているのだろうなと思えるその犬たちの中に、動物の生の強さを感じられないこともあります。逆にまだ室内でストレス行動を繰り広げている犬を見ると、その中に怒りや憤りを感じることができるため、まだ生きる力があるのだと安心してしまいます。

 そうはいってもこうした問題を起こす犬たちにも限界があります。そのうちに抵抗する力はなくなり、大人しくなったかと思えばただ生きることをやめ、生かされることを選択したかのような姿に変化してしまいます。飼い主さんはこの内面的な光の変化に気づくことはあまりありません。だからこそ、輝きを失う前に犬が生きているということがどういうことなのかを知り、そこにいっしょに寄り添っていただきたいと思うのです。

 小学生の低学年までは東京で育ったため、夏休みには遠縁の親戚の家に母と共に出かけたことを思い出します。マンション暮らしでマンションの砂場が遊び場だった自分にとって、山の中で蝉をとったり川でザリガニをとったりした思い出は今でも鮮明に映像として記憶に残っています。もっとたくさんの思い出があったはずなのに、わずかに残されている映像がこうした自然の映像であることはとても不思議なことです。

 ということで、犬の夏休みを山林学校で過ごさせたいと真剣に考える飼い主さんはぜひご連絡ください。山には危険もいっぱいあります。ケガとも無縁ではありません。ブヨにさされて赤いぽつぽつができるかもしれません。それでも、それが生きているということではないでしょうか。

グッドボーイハートの犬の預かりクラスの詳細はこちらでご覧ください。

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Posted in クラスのこと, 犬のこと

よく動く元気な犬が活動的とはいえない理由:犬の自己抑制力と行動の関連性を知ること

犬の行動範囲は活動性について飼い主さんに質問をして犬の行動についてもろもろの状況説明を聞く中で、犬の見方の違いについて感じることがあります。たとえば、犬がよく動いて活動することが、活発であり積極的な犬なのだと思っていることです。こうして文字に書けば、動くことが活動することなのだから、積極的に活動するので間違ってはいないのではないかと受け取られるでしょう。しかしこうした犬の行動ももっと綿密にみていきその行動の目的や達成しているものとつなぎ合わせると以外にそうでもないということに気づきます。今回は犬の必要性や発達に関する情報について知っていただきたくためのヒントを提供します。

● 野生動物の行動範囲からみる動物の性質

七山校での早朝の出来事、朝の5時半くらいにガサガサと窓の外で動物が歩く音が聞こえてきました。あ、またアナグマが幼虫でも探しに来たのだろうなと、音のする方に視線を移します。ぼんやりと茶色の動物のシルエットが目の中に入ってきました。サイズが大きい?アナグマではなくイノシシだったのです。

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庭先で探索するイノシシ



大きいといっても成獣になると背中までの高さが1メートルくらいになるイノシシです。庭先にうろついていたイノシシは60センチくらいの、まだ駆け出しのイノシシでした。この春に生まれて親元を離れ単独で行動できるようになったのだろうと推測します。

野生動物は人を恐れています。特に、イノシシやアナグマは食用として狩られる一方で畑を荒らす害獣として扱われています。人が畑を持って以来の長い歴史の闘争です。そのため、イノシシは人の暮らす家周辺を日中にうろつく事はありません。夜間になると人間の屋外活動が停止するため、その時間を利用して危険地域をうろつき始めます。

このイノシシがいた時間はすでに陽が登り、あたりは明るくなっていました。のん気にうろつくのは危険な時間帯です。しかも、まだあまり経験値のない若いイノシシが近付いて安心できるような場所でもありません。庭と裏山の間の草刈が追いつかず、多少の茂みができてしまったことで、イノシシが経路を間違ったと考えることもできます。

そして、この積極的に活動するイノシシの性質ですが、ある面では利益を得る可能性が高い行動です。家の周囲には柿や栗などの木もあり、そろそろ青い実が落ち始めています。もみじの根や若い木々の上に這うむかごの根は山芋で、イノシシの大好物です。山奥では得られないご馳走を食べることのできるからです。

一方で危険性を伴う行動でもあります。動物の行動範囲は、好奇心や積極的な態度、欲求の高さにより活動性の高まりによって広がる反面、警戒心や慎重な態度、欲求を抑える抑制力によって制限されています。結局のところ、冒険心の強く欲が高すぎて危険を顧みず行動をすれば、その動物は事故や事件に巻き込まれ子孫を残す前に死ぬことになります。こうして淘汰がかかるため、自然環境に自律的に生活する野生動物は、一定の警戒心によって行動を抑制する力を備えています。こうしたブレーキがきちんと働いていることが、生きていくために大切だということを受け継いでいるのです。

● 家庭犬にみる抑制力の低さ

それでは、家庭犬の活動性はどのように変化しているでしょうか。まず、愛玩化によって活動性は極端に低くなっています。愛玩として人が求めている犬は、抱っこしたり、その辺に寝そべらせたりしているだけで、活動しない犬を良しとするからです。いわゆるお座敷犬といわれ、犬用のマットや座布団に寝そべって一日を終えてしまうような犬や人に抱っこされてじっとしているような犬を求めているなら、それは愛玩犬といいます。

また、人為的な繁殖による身体構造の変化によって、犬の本来の活動場所であった斜面の上り下りすら難しくなっています。うちの犬は上がったり下りたりできると思っている方も犬の動きをよくみてください。体のサイズやバランスの悪さから犬はよく飛び跳ねるように動きます。段差を歩くのではなくぴょんぴょんと飛びます。大きなサイズの犬も四つ足のバランスの悪い状態で立っていることができないからです。足の運びが速くなり、階段もとても早く上り下りをします。逆にバランスがとれる犬は階段の上り下りでもゆっくりと途中で止まることもできます。数歩でしたら後ろに下がることも可能です。

これらの活動性の低さと身体能力の変化にあわせて変化してきたのが、犬の抑制力の低さです。本来の動物は活動性があり、身体能力も発達しているが、抑制力が働かないと淘汰されてしまうという説明をしました。ところが、犬の場合には人為的な繁殖や管理方法によってその活動性が低下し、身体的な能力も明らかに低下しました。しかし同時に抑制力も低下してしまっていることが以外に理解されていません。

日常的に管理された場所で行動範囲も決められて活動性も低くなっている犬であれば、室内では動くことが少なくなっています。屋外では常に囲いかリードで制限されているため、自分で行動制限を与える必要がありません。家庭犬たちは抑制というブレーキ機能を使わないまま成長します。このブレーキのない動物の危険性は、リードが外れてしまったり、家の戸口がたまたま開いていたときに事故となります。犬は制限された場所から走り出してしまい、走り出した場所で見知らぬものに接近しすぎてしまいます。

急に走り出すこうした犬の行動は、屋外だけでなく室内でも見られることがあります。インターホンが鳴ったとき、来客が来たとき、何かいつもと違うものが部屋の中にあったとき、いつもはしまっている戸口がたまたま開いていたときなど、におもわず駆け出してしまうのは、活動性が高いからではありません。これは衝動的な行動なのです。この衝動的な行動をとっているときは、犬が周囲の環境の変化や接近した対象に対して正しく認知を進める作業は行われません。衝動的な行動をしているときにはかなりテンションが高まっているからです。

● 家庭犬の抑制力を育てることはできるのか?

抑制力の働いていない衝動的な行動は活動性の高さとはいえません。わかりやすく言えば、これらの衝動的な行動は、犬のストレス性行動といえます。つまり、犬はストレスの状態を強めていこうとしている状態なので、外部からのなんらかの制御を必要としている状況にあるということです。

この制御機能が備わっていない動物に対して、その機能の発達を求められるかどうかは、個体差がありはっきりといえません。もう少し正確にいうと、だれもその犬の失われた機能の発達を求めていないのですから、実際どうなのかということはわかっていないということです。

現実的に考えれば、人為的な繁殖によってゆがめられた犬の機能性を、経験を通して復活させることは、とても難しいことだと思います。犬には冒険をさせることもできず、環境を制限された室内やリードがついている場所や、安全な囲いの中で行動させることを人が望んだ結果です。犬が本来もつ能力と機能性の高さを思うと、こうして犬が変化していくことはとても悲しいことではありますが、この流れはしばらく続きそうです。

しかし、人は考えて変化する動物です。人という動物の変化にはまだ希望もあります。尊敬するジェーングドール博士の掲げた3つの理念のひとつは「hope」です。人という動物を信じることができなくなったとき、動物の美しさはすべて失われるのかもしれません。

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Posted in 犬のこと

犬語セミナーに学ぶ:他の犬に吠えるのは社会経験不足だからなの?

 週末は七山校で犬語セミナーを開催しました。犬の行動観察を通して犬の状態を知るために考える機会をつくるために、毎月開催しているセミナーです。犬の行動を動画をくり返し見ることで確認していきます。また参加者のみなさんからいろんな意見を聞くことができるので、毎月の開催をとても楽しみにしています。


● 犬を理解してより良い関係を作るためにセミナーを活用しよう!

 今回のセミナーに使用したビデオは、ここ数ヶ月の間に、トレーニングクラスのときに犬と犬が対面する機会を作ったときにに撮影したものばかりでした。特にはじめてセミナーにご参加の飼い主さん方には、ご自分の犬をビデオを通して客観的に見ていただく貴重な機会となりました。普段はなにげなく見過ごしてしまう犬の行動は、客観的に見ることができるようになると、かなり見方が変化していきます。
 
 自分の犬の行動を他の参加者の方がどのように見ているのかを知るだけでも、「なるほどね。」というような驚きがあります。よく他人のことはよくわかるけど自分のことはわからないということがあります。それと同じようなことですが、自分の犬には思い込んでいる部分が多いものです。ですから、一番犬のことを理解したいと思っている飼い主が最も見落としが多くなってしまうことはよくあることなので落ち込む必要もありません。

 犬と犬の対面のビデオは、犬と人の対面のビデオよりも犬のコミュニケーションをより鮮明に見ることができます。人に対するコミュニケーションは、これまでの人の接し方によって身につけた学習によるコミュニケーションで構成されています。人は犬のように受け取ることもできないばかりか、表現することもできません。犬はもちろん種の異なる人に対して、四つ足で歩いてコミュニケーションをとることを求めているわけではありません。犬は自分の表現したことを人がどのように受け取るのかで、その後のコミュニケーションを決めていきます。

 たとえば、犬が人にとびつく行動をしたとします。そのときに人が犬を撫でたり褒めたりすれば、犬は飼い主が「とびつきという行動」を歓迎している、もしくは受け入れていると学習します。そしてまた次も同じように人にとびつくようになります。すごく単純な学習ですね。他にも、飼い主が食事をしているときに「ワンワン」とオスワリして要求して吠えた犬に対して、お皿からハムを一個とって与えれば、犬は次の食事のときにもまた同じ事をするでしょう。これも確かにコミュニケーションのひとつではありますが、犬と犬のコミュニケーションはこうはいきません。犬が犬に要求を通せるのは母乳を吸っているときだけです。その後は成犬と子犬も社会的関係となります。子犬のままでは通用しません。


カレンお外


● 犬のコミュニケーションは犬と犬を会わせる経験で身に付くものなのか?

 犬の社会性を育てるしつけ法について尋ねられることがあります。その中に、「犬をたくさんの犬に会われば犬とコミュニケーションがとれるようになると聞いたのですが本当でしょうか?」という質問があります。単にたくさんの犬に会わせるという経験が犬に対する社会性やコミュニケーションを育てることはありません。種は違っても社会性という言葉の意味では人の社会性との相違もあります。自分に置き換えればわかることですが、たくさんの人に会ったから社会性が発達するということはありません。むしろ、囲いやリードをつけている制限された環境の中でたくさんの犬に会わせることは、逆に犬の社会性を低下させる危険性の方が高くなります。犬の行動の見方や、しつけやトレーニングの方法は様々ですから異なる意見もあることは承知の上ですが、むしろその危険性の方を指摘したいのは次のような理由からです。

 犬と犬のコミュニケーションを行動として見たときに、その行動が犬のどのような状態や情動を表現しているのかということをもう一度慎重に考える必要があります。今回の犬語セミナーにもいくつもそのような犬の行動がありました。犬が犬に対してワンワンと吠えていたとして、それが相手の犬に対するどのような表現方法なのかを知ることは簡単ではありません。声の質や高さや犬の動きやその変化などを細かく観察し、周囲の関係性も含めて分析することでひとつずつ理解を進めます。初心者の方であれば、ただ遊びたいと思っているとか、ただあっちへ行けといっていると考えてしまう犬の行動にも、実は大変複雑な欲求と葛藤を見ることができます。というのも、犬がその年齢にいたるまでに発達が必要であった社会的行動や表現方法を身につけていないからです。

 コミュニケーション力を身につけていない理由について考えるとき、その落とし穴に「経験不足」という理由があります。特に社会経験についてよく使われる言葉です。他の犬に対するコミュニケーション力や社会表現が発達しなかったのは、今まで犬に会ってこなかった社会経験不足からだと思ってしまいます。会わせなかったから上手くいかないのだ、だからたくさん会わせたらいいのだという単純な発想が、上記の「たくさんの犬に会わせれば社会性が発達する」という誤解につながりました。

 他の犬とのコミュニケーションや社会性がうまくいかない犬には、ある面での社会経験不足がありますが、実はそれだけではありません。というのは、犬たちはそれぞれに、現在に至るまでにたくさんの社会経験をしてきたからです。親犬から生まれ、親犬に育てられ、兄弟犬と過ごすといったことから始まり、その接した犬たちがどのような状態であったかということまで、そしてその飼育環境、親犬の人に対する社会性や犬に対する社会性までが子犬の社会性の発達に影響しています。

 また、子犬のときに接した人々はその犬をどのような環境でどのように接しながら育てたのかということは、いうまでもなく犬の社会性の構築に強く影響しています。犬を不安定な環境にさらしたり、長時間の留守番をさせたり、抱っこして甘やかしたりすることは、犬の社会性の構築とその表現に影響を与えているのです。ですから、犬にあわせなかった経験不足として片付けてしまうことは止めましょう。飼い主として自分が犬に与えた影響をまず現実的に受け取れなければ、これからの犬の成長を支えることもできないからです。

● 犬といっしょに過ごさせる犬のデイケアクラスは社会性を高めるのか?

 犬と犬をいっしょに過ごさせる犬のデイケアクラス(日帰りのお預かりクラス)を提供する犬の学校もとても増えました。グッドボーイハートでは2003年から2007年まで博多駅南校を運営していたときに、犬のデイケアクラスを提供していました。犬と犬をいっしょに過ごさせる環境や機会がなかなか整わず、多忙な飼い主さんのお仕事の合間でできることがあればと思い始めたのです。博多のビルの一室でしたので環境が十分とはいえない状態でしたが、毎日のお預かり中に犬と犬が共に過ごす時間を管理しながら提供して、犬の社会性の発達の機会を探っていきました。

 このデイケアクラスを行う中でいくつかの重要なことを学びました。ひとつは、他の犬に対するコミュニケーションや態度は家庭内でつくられているということです。犬と会わせる回数や頭数では決まりません。他の犬に対する社会的態度がとても難しい犬は、ご家庭内での環境管理や飼い主さんとの関係改善を行わない限り、社会性を発達させることはできません。これはデイケアクラスを始める以前からわかっていたことです。そのためグッドボーイハートでは個人レッスンを受講されない方はデイケアクラスのご利用ができないシステムになっていました。しかし、実際に飼い主さん不在の状態で犬をお預かりしてその社会性を観察すると、この事実がさらに確信へとつながっていたことは間違いありません。

 ふたつめの学びは、犬と犬を一対一で会わせたとしても、それは一対一の問題ではないということです。つまり、犬の社会性は個性だけで単独で出来上がっているものではないという事実があります。これは西洋式になんでも切り離して細分化する考えになじみがあるとわかりにくい見方ですが、つながりの社会を基盤にする日本人には受け入れやすい捉え方です。その1頭の犬はまずどこかの家庭という群れに所属しているか、もしくは所属せずに所有されているかのどちらかです。厳しい表現になりますが、犬を家族の一員という言葉でごまかしても、実際には犬を飼い主の物として大切に所有する価値観が存在することも否定しません。しかし、この所有は所属とは別の関係であることを冷静に理解することも必要なことです。善悪ではなく、真実とは何かをきちんと知ることが次の変化を生み出すことになるからです。

 こうしたことを考えると、犬同志のコミュニケーションと社会的関係の発達は、基盤となる家族と家庭の影響を最も強く受けています。ただデイケアクラスで預かっただけではなんともできないということになります。当時グッドボーイハートには彼らの世話を引き受けてくれる犬がいました。その存在の大きさは、様々な状況で思い知ることになりました。しかしこれでは1頭の犬に負担がかかりすぎます。犬たちが集う場所であったグッドボーイハートのデイケアの場の均衡に影響したその犬が不調をきたしたことでデイケアの場は大きく変動しました。たくさんの学びの場となったデイケアクラスでしたが、社会性の発達という目的を他の方向に向ける必要性を感じて終了し、現在にいたります。

 犬と犬がいっしょに過ごす経験をしたとしても、その環境やどのような犬とどのように過ごしたのか、それに対して人がどのように影響したのかを含めて判断しなければ、社会性を高める場になるとはいえません。そうであっても、犬と犬が同じスペースの中で過ごす時間を持てば、犬の緊張や興奮はかなり高いものになります。一日預けておけば、帰宅したらぐっすりと寝てくれることが、ときには多忙な飼い主にとってはごほうびになってしまうことがあります。疲れて寝てくれてよかったというものですね。ところが犬の社会性がきちんと発達しているのかどうかを理解する機会は失われてしまうこともあります。

 もう一度、自分の犬の社会性の発達について考え理解する時間をきちんと持ちましょう。そして、その社会性の発達に影響を与えているすべてのことや社会的な対象について書き出していきましょう。犬を飼うのは大変だという感想をいただくこともありますが、種のことなる動物を理解して共に暮らすことがそんなに簡単はわけはありません。その難しさを解いていくことは、ときにウーンとなることもありますが、結局は犬と人の関係を築いていく過程にすぎないのです。それはとても楽しくすばらしく、そして感動的なことです。

ブランとマージテラス




Posted in クラスのこと, 犬のこと

犬の熱中症(熱射病)対策と注意点:日々の観察でわかる犬の異変とシグナルについて

 本格的な暑さで夏に突入しました。多くの犬にとっては湿度の高い日本の夏は過酷な季節です。
この時期に注意して欲しい管理のひとつに「犬の熱中症対策」についての心構えと管理の必須についてお話します。


● 犬の熱中症はどのような状況でなりやすいのか?

 犬の熱中症は人の熱中症と同じです。動物は気温の上昇に対して自分の体温を一定に保つための機能が備わっています。外気温が高い状態が続くと、この体温機能調整が一時的に働くなってしまい、自分の体温がどんどん上昇してしまいます。体温の上昇に伴い身体のあらゆる部分が機能不全となり、重症な場合には死亡にいたることもあります。

 季節的には7月~9月の気温の高い時期が多いのですが、今の都市部は冬でも結構暖かい季節が続くため一年のうちのいつでも熱中症にかかる可能性があることを否定できません。

 また、海や川遊びの最中でも熱中症になることがあります。海や川に入っているときは体が冷えているから熱中症にならないだろうという風に思いがちです。ところが、海や川に行くと大抵の犬は興奮してしまいます。そのためなんども泳ぎをくり返したり走り回ったりと興奮することが熱中症の原因にあることがあります。特に海遊びでは多少なりとも海水を口に含んでしまうことがあります。そのため遊びの途中で下痢をすることもあります。これで脱水症状となりその後体温調節が働かなくなる熱中症状態になることもあります。

 ドッグランなどの興奮しやすい犬のたまり場でも熱中症は要注意です。ここでも季節的にはもちろんですが、油断しやすい春や秋にも非常に興奮した状態で熱中症になることがあります。あまり動いていない犬も緊張すると水を飲むことができません。少しの刺激で熱中症になる可能性も十分にあります。

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● どのようなタイプの犬が熱中症になりやすいのか?
 
 上記の遊び中や犬同志のたまり場で起きる熱中症については、飼い主が以外と見過ごしてしまっていることがあります。それは、
犬が興奮していることを常日頃から喜んでいるとか楽しんでいると思いすぎることからくる見間違いや見落としです。犬が走り回っていたり、飛んだり跳ねたりしているのを、犬という動物としては通常の行動だと思うとこうした行動の連続についての介入する必要性を思いつかないでしょう。普段から室内にいる時間が長く、リードをつけての散歩の毎日を過ごしている犬であれば、リードを外されたら興奮してしまうのは当たり前のことです。しかしそれだけでなく、他の犬と囲いの中に入れられて走り回りの逃走行動などを緊張して行えば、興奮&緊張で自律神経はいっぱいいっぱいになってしまいます。

 犬の年齢では、1才半までの成長期の犬と、8才以上の老犬の始まりとなるような犬たちは熱中症になりやすい傾向があります。犬がどのようにして体温を調整しているかをご存知だと思います。口を開けてハアハアといって口から熱い蒸気を出しています。そしてまた水を飲み同じことを繰り返します。これが人のする発汗機能になっています。犬の身体的な機能は1才半くらいまでをかけてゆっくりと機能性を高めていきます。体温機能調節についても、なんどもその作業をくり返しながらステップアップしているのです。逆に老犬になるとこの機能性は落ちてきます。若い犬よりも体力もなくなり機能性が落ちてしまうというのを人であれば50歳を超えるころには実感し始めることでしょう。犬の8才というと60歳前くらいにはなっています。若いときのようにはいかないというのは人も犬も同じことです。

 犬の体温調節機能を管理しているのは犬の自律神経です。上昇する体温を一定に保つために自律神経がバランスをとろうとがんばります。ところが、犬の中にはこの自律神経機能が十部に働かないことがあります。特に純血種の犬についてはこの傾向があります。純血種の犬はすべて働く犬だと勘違いされている方も多いようですが、今みなさんの足元にいる純血種の犬たちはそのほとんどが愛玩用に繁殖されてきた犬たちです。そのため屋外でバリバリを働くような機能性を持っていません。本来の犬は屋外の動物ですから外気温への対応は人よりも優れていると思いがちです。犬なんだから大丈夫という風に思いたいところですがそうもいきません。

 純血種の犬の繁殖犬(親犬)の多くは室温管理された場所で飼育されており、外気温に対する調整機能を働かせる必要がありません。また、できるだけかわいいと思われる容姿を備えさせるために、フワフワのぬいぐるみような毛質や、長毛の犬、またアンダーコートとはいえない密集したぬいぐるみのような毛質に覆われた犬として繁殖されている犬種もいます。すべて人が望んだ結果作られた犬たちですが、これらの犬の体温調節は本当に大変だということを共感できればと思います。

 純血種については行動のすくない大人しい犬といわれる愛玩タイプの犬は自律機能性が発達しにくい状況にあります。たとえば恐怖を感じても行動しない、来客があっても番犬吠えをしない、逃げたり攻撃したりせずに人にべったりとしているような犬です。これらの犬は社会性が高いと誤解されていますが、自律機能が低く行動が常時にくい状態にあるだけです。実際、本当に怖いことがあるといきなりスイッチが入り、パニックとなって走り出すことがある大変危険な犬たちです。同じ理由で突然熱中症になってしまうこともあります。


● 熱中症かもと思われる犬の状態と対策としてできることとは?

 体温調節機能のための行動で説明したとおり、犬は熱いときにはよく水をのみ、ハアハアと舌を出す面積を大きくして体温を下げようとします。もしこのハアハアがはじまったらすぐに一旦休憩、もしくは落ち着かせをしたりすぐに気温の低い場所に移動するなどの対策をする必要があります。老犬になるとこの季節はハアハアといい始めたらエアコンの温度を少し下げなければいけません。これが若いときは次第に落ち着いたものがかなり設定温度を下げなければいけないこともあります。もちろん、冷しすぎると逆にそれも体温調節に負担をかけることになりますので、人工的な管理ですから扇風機などの風を使って室内の温度を上手く調整してみましょう。最近のエアコンはとてもお利口のようなので、古いエアコンは早めに買い替えも必要かもしれません。

 実は、本当に大変な状態になるのは、ハアハアという荒い息づかいが出ないときなのです。熱中症になると軽症では手足の力が抜けたようにふわりと倒れる動作をします。バタンと倒れることもあります。この直前にハアハアという息遣いをしていないことが多いのです。つまり息づかいをハアハアといわなくなった状態ではもう体温調節が効かなくなっているということです。これで倒れるまで気がつかずにいることが多いので、大変慌てることになります。シグナルでいえば、少し朦朧としたような表情になります。焦点がぼやけたような表情です。目がうつろといったらいいでしょうか。そして直接ではなくふらふらと動くようになります。これも普段から安定した動きでなかったりリードをひっぱる行動が出ていたらわかりにくいですね。

 とにかくいつもと違うなと思ったら、一旦休憩して様子を見ます。水はいつも提供しましょう。外にでるとなかなか水を飲むことができない犬は緊張感が高い合図です。少しずつ克服して緊張をとけるように練習する必要もありますが、いろんな場所に連れ出すことだけは避けてください。まずは通いなれた場所に何ども足を運んで自信をつけていくことです。先にも述べたとおり、犬は人とは違います。人が楽しければ犬が楽しいわけではありません。犬が興奮したり緊張したりするのを楽しんでいると思い込むことを止めてみます。ゆっくりと時間をかけて楽しむこと、犬が楽しいと感じていることをじっくりと味わうことも大切な犬との関係性です。

 十分に注意して、厳しい季節をあと少しだけがんばって秋の到来を待ちましょう。


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犬の怖がり、恐怖症、興奮を克服するために:プライベートトレッキングクラスで身につける犬の行動力

 酷暑の福岡と比較すると本当に涼しい七山ですが、毎日の早朝の仕事となる草刈り業にはため息の出ることも多いです。
 それでも、少し草刈りを進めると冷たい風がほおをすり抜けていくというごほうびもあります。わたしがやらずして誰がやると言い聞かせ、再び鎌を動かし続けます。この週末には、尾歩山にトレッキングクラスのために来校してくださる方がたくさんいるので、少しでも良い風を受けて欲しいという思いからついついがんばりが欲張りとなってしまいました。


● トレッキングクラスに参加してくれる飼い主さんと犬たちなのか?

 プライベートトレッキングクラスの目的は、ただ犬と楽しく過ごすという趣味的なものではありません。その時間に起きていることはとても奥が深いため、飼い主さんの利用の目的も幅広いため、参加される方々の目的はそれぞれに違います。共通して言えるのは、トレッキングクラスに参加されるすべての飼い主さんが、犬とのより良い関係と、より良い生活を望んでいらっしゃるということです。

 グッドボーイハートでは、ご自宅の環境を整えることが最優先です。そして次のステップとしてトレッキングクラスを通して犬との関係を見直したり、より良い関係をつくる機会を得ていただいています。さまざまなタイプの行動の問題を抱えている犬たちの中でも、特にトレッキングクラスをお薦めしたい犬たちはこんな犬たちです。おびえがある、恐怖を抱きやすい、逃走行動の傾向がある、興奮しやすい、分離不安傾向があるなど、こんな犬たちにはトレッキングクラスの利用をお薦めしています。

 ところがこのトレッキングクラスですが飼い主さんがいっしょに歩くことに意味があります。中には山歩きが苦手な飼い主さんもいますので、家で待っているから犬と先生だけで歩いてくれないかしらと思われることもあるかもしれません。実際に、お預かりクラスの時間ではわたしと犬だけで、つまり飼い主さん不在の状態で山歩きをすることがあります。山歩きを通して犬の行動や性質について新たに知ることも多く、犬の個体の本質に関心の高い自分にとってはとても有意義な時間になります。ここに飼い主さんもいっしょに犬と歩いていただくことで、犬と飼い主さんの現在の関係やバランスを見ることができるのです。

 なぜそんなことが可能なのかというと、それはクラスに参加された方だけが知っていくことになる大切な秘密なのでここではお伝えできません。お伝えできることといえば、犬と人が自然との距離感をどのように持っているかを知ることで、犬と人の距離感や関係を知ることができるのだということです。トレッキングといっても山を駆け回るようなドッグランのような歩き方ではありません。みんなゆっくりと呼吸を合わせながら、一歩一歩の風景を感じながら安全を確保しながら、お互いを信頼しながら山を深めていきます。


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● 犬の恐怖行動、怖がり、おびえる犬が多い理由とは

 犬の行動はワンパターンではありません。たとえば怖がる恐怖反応を出す犬が何頭かいたとしても、それらの犬たちがすべて同じ状態であるわけではありません。犬は環境や経験や影響を最も受けている飼い主が全部違うのですから、恐怖反応の強い犬としてひとくくりにはできません。しかし、その問題の中には共通点を見出すことができます。共通点となる問題は繁殖や子犬時代の扱い方や環境によるものも多いものです。

 純血種犬のほとんどがブリーディングという作業を通して人為的に繁殖され、販売店で販売されるシステムを経て飼い主の元に行きます。もしくは、ブリーダーから直接飼い主さんの元に行くこともあるでしょう。もしくは保護された犬が保護施設や保護団体を通して飼い主の元に引き取られることがあります。その子犬期の多くに経験するのが多頭飼育や施設で起きる「収容」という問題です。子犬期の収容は子犬の成長時にトラブルを抱えやすくなります。専門家はこれをどう軽減させていくかを考えて飼育管理をしなければいけません。

 こうした社会的背景とは別に、犬のコミュニケーションに対する理解不足というのがあります。たとえば子犬をずっと抱っこして育てたり、人にとびついたり膝の上に乗ってきたり腹部を見せる行動を「人が好きだ」と勘違いしてしまい、いつまでも受け入れ続けたりということが、結果として犬のおびえや恐怖を強めているのだということを理解するのには時間がかかるようです。犬の専門家が正しく伝えきれていないという意味では自分たちも反省が必要だと痛感しています。


● 犬の恐怖行動、怖がり、おびえ、パニックになりやすい犬がトレッキングを通して変化していくこと

 これから起きる予備軍を未然に防ぐこととは別に、すでに恐怖行動が出やすい犬については改善のために飼い主さんが努力をするしかありません。おびえや恐怖を示す犬は決してハッピーではありません。そうした犬は特定の人に過度に甘える行動をするため、人のことが好きだと勘違いされています。むしろその行動をかわいいと褒められたりすることもあるようです。
 
 しかし、これらの犬たちは精神的に安らぎを得られません。常におびえて人に対して積極的な反応を示すよう求めています。いつも自分を受け入れてもらうことを確認するための様々な行動を繰り広げて落ち着きがありません。人に触っていてもらわないと落ち着いて寝ることもできなくなるかもしれません。いつも抱っこされることを確認するかもしれません。何ども室内トイレに行って排泄をする犬もいます。

 こうした犬たちの行動改善と性質の安定のために、トレッキングクラスを受講されることをおすすめしています。先に述べたようにご自宅での環境整備が一番ですが、次のステップとしてお山歩きはグッドボーイハートでは大切なクラスの軸になっています。

 ルールに従って山で過ごすことは動物の脳に一定の影響を与えます。山歩きといってもお酒やバーベキューを持ち込むキャンプでは意味がありません。本当に山を愛する人は、ほんのわずかな道具で山とひとつになってゆっくりと歩いているという風に想像することができるでしょう。最小限のものを持って山の神様に遠慮しながら、その場を拝借しながら自分もそのひとつになるのです。

 山のルールを徹底させれば、動物の脳はある刺激を受けます。犬の脳にどのような刺激があるのか科学的に説明することはできません。ただ行動の変化は見られます。ゆっくりと歩くようになる、人との距離感が変わってくる、地面の臭いに興味を示すようになる、風を感じているようだ、草を食べるようになった、水をいつもよりもよく飲む、目の輝きがいつもと違う、毛の柔らかさに変化がでるなど、その変化はわかりにくいものからわかりやすいものまで様々です。

 これは想像ですが、どうやら山歩きは動物の原始的な脳に働きかけてくれているようです。大脳を使った人とのやりとりではなく、自然とのやりとりに犬は古い脳の領域の活性化を必要としているようです。これはとても重要なことなのです。大脳を使ったトレーニングは人間の得意とするところです。人間など原始的な脳はほとんどなくなっているような大脳の生き物です。犬が自分達のいうことを聞くように大脳を強化したのは人間の方です。ところが自然は大脳で感知するには不足しています。犬の足裏から得られる情報、臭いから得られる情報、皮膚を通して知り得たことなどその全てがその場で過ごすために必要な情報として受け取られ、その情報を得るたびに犬の脳と体を活性化させているように感じます。

 犬は自信を持ち始めるようです。ここでは飼い主に褒められる必要もありません。自分の機能を十分に発揮できたときに動物は本当の安心を得られるのです。なんだかワクワクする自分は大丈夫だという感じでしょうか。人との近すぎる距離感におびえていた犬たちも一瞬ですが、本来の安心を獲得しています。また自宅に戻ればおびえは復活するでしょう。しかしくり返し山歩きを続けることで、犬の行動が変化してくることは予測がたちます。いっしょにいる飼い主さんの姿勢も大切です。共に成長しなければ共に歩く意味もあまりないからです。


● 犬と人に生まれる共感と協調の世界とは

 犬と人はそもそも種が異なります。種という大きな枠の中ではとても遠い存在なのです。犬は犬との闘争行動が強いことがあるため、うちの犬は犬がダメなのだとガッカリされることもあります。しかしそれこそ、その犬が犬である理由なのです。闘争行動という攻撃の対象に真っ先になるのは同種の動物だからです。

 同時に共感と協調の世界も同種間で生じやすい傾向があります。これも種という生き物の力の強さなのでしょうが、社会的構造を持つ種ほど、共感と協調性の世界を強くもっています。災害が起きて不幸になる人のことを知り心が痛んだり食事が喉を通らなかったりするのは、人と人という関係の中で無関係ではいられないからです。同じ理由で理不尽な行動をする人がいることを知ると、怒りや攻撃性を芽生えさせたりします。これも同じ種である人と人の間に起きることです。

 犬に話を戻します。攻撃の対象が犬になりやすいというのはわかりやすい例でしょう。しかし共感できる相手が犬と犬だというと難しいと感じることも多いでしょう。お友達といわれる犬と犬もいっしょに写真に写ってはいるものの、その行動には協調性を感じられないことがあるものです。それは、犬があまりにも閉鎖的な空間で長い時間管理されて生活をし自由を得られていない状態にあるため、本来イヌ科動物のもつ高い社会性をどこかに置き去りにされてきているからです。犬はいつも人に執着するようになり、人の要求に応えるもしくは人に要求するのが犬だという傾向も強くなっています。

 共感や協調性は対等な立場からしか生まれません。現実的には犬と人は全く対等ではありません。ほんの100年くらいの間に犬という動物の自由は奪われたままでまだ復活してはいないというのが、とりあえずの現状です。でも諦めることはできません。なぜなら山という学びの場がここにあるからです。言葉では伝えられない犬と山の関係を、ひとりでも多くの方に体感していただければと願っています。

 今日もトレッキングクラスデビューの犬くん、犬ちゃんたちが続々とお山にやってきます。尾歩山の清らかな空気の中でいっしょに学びましょう。



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犬と触れ合うコミュニケーションを学ぶ:ドッグ・タッチクラスで触れあいの対話をしよう

 一昨日のブログの老犬介護クラスのご紹介でドッグ・ヒーリングについて触れさせていただきました。今回は犬と触れ合うコミュニケーションを飼い主さん自身に身に付けていただくためのクラス「ドッグ・タッチクラス」の体験をご紹介します。


●犬と触れあいのコミュニケーションを深めるドッグ・タッチ

 3才のころにトレーニングクラスでご縁のあった犬くんの飼い主さんからご連絡を受けました。やんちゃだった犬くんが老犬になって自宅でお世話をしているためお世話について相談したいということで伺いました。カウンセリングを通して今の状態やできることをいっしょに考えたりご提案させていただきました。その中で、飼い主さんが今できることをひとつでもステップアップさせたいというお気持ちが高いことも受け取りました。その飼い主さんのご希望でドッグ・タッチクラスを受講されることになったのです。

 ドッグ・タッチクラスの目的は「犬とより深い『触れあいのコミュニケーション力』を身につける」ことです。犬との暮らしで飼い主が犬から学ぶことは、犬の年齢や成長に応じて様々です。子犬のころのトイレのしつけや人との関係性を学ぶ社会的な経験学習、安定した散歩ができるよう練習したり、犬ができるだけストレスを低くして生活していくことができるよう環境を安定させる学習、犬が自然との距離感を縮めて犬としての時間が過ごせるようになるための自然学習など、飼い主が犬に教えていると思っている時間を使って、実は犬からたくさんのことを学びます。つまり、犬と共に学ぶことは山のようにあるのです。

 それら全ての犬との学びを通して、犬の気持ちや状態を理解する犬と対話する力を身に付けていくことがグッドボーイハートのすべてのクラスの目的です。犬を犬として理解すること、理解を基盤により良い関係を身につけていくことです。犬の成長のどの段階でも犬から学ぶことはとても多く、どんなときにもこうした学びの機会を与えてくれる犬という存在に頭の下がる思いです。

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●ドッグ・タッチクラスが老犬に対して役立つのは何故か?

 ドッグ・タッチクラスはその理解を基盤にした対話の最も深いコミュニケーションです。コミュニケーションを受け取るときは、多くは犬の行動を通して相手を理解することができます。犬語セミナーは犬の行動に対して集中的に焦点を当てたセミナーです。犬の行動学を理解することは犬への理解に直接的につながります。

 これが、老犬になると少し難しくなります。老犬の一つ目の理由は犬のコミュニケーション力が低下してくるからです。犬にも認知症があります。また犬が伝えたいことや犬の要求が成犬のころと違いより深いものに変わっていくという問題もあります。

 もちろん老犬にも行動がありますので、ある程度行動で理解することができます。介護のお世話のときにお伝えすることもたくさんあります。ただ、老犬と対話することを通して犬が落ち着く時間を持つことは行動の理解だけでは上手くいかないのです。その溝を埋めてくれるのが、触れあうというコミュニケーションなのです。

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● 「ふれあう」と「さわる」は違うことを理解しよう

 最近では「触れあい教室」や「触れあいの場」と称して犬や猫などの動物を触る場を提供される教育やイベントがあります。触れあいとはただ触ることではありません。文字での説明では誤解を受ける恐れもありますが、ここでははっきりと意見いたします。「触れあい(ふれあい)」と「触る(さわる)」は違うのです。「触れあい」とはお互い様の関係、「触る」のは一方的な関係です。

 「触れあい」は人と犬のお互い様の関係にたったコミュニケーションなので「対話」と言い換えることができます。こちらが呼びかけて相手が応える、もしくは相手の話に耳を傾けてこちらがそれに応じるという対話です。対話は動物を落ち着かせます。人は社会的な動物です。対話を通して落ち着きを得られるのは人と人の関係でも同じことです。お互いに分かり合えない事があることを前提に、分かり合おうとする姿勢を持つことが対話です。

 これにたいして「触る」は一方的です。相手がどのような状態であっても、こちらが手を出す触るはペットの語源でもあります。人が触る目的のためにフワフワの毛に作られた人為的な繁殖をされた犬たちも、人に一方的に触られることで幸せを得ることはできません。触って人が満足を得ようとすると、犬はストレス状態となり、人に多くのことを要求したり、防衛したり、攻撃的になったりします。


●ドッグ・タッチって誰でもできるようになるの?

 ドッグ・タッチは技術を身につけるクラスではありません。実際にはトレーニングクラスもテクニックを身につけるためのクラスではありません。関係性を作るためにテクニックを用いる必要があるでしょうか。人と犬の関係は、向き合いの姿勢、そして生き方であると思います。

 ドッグ・タッチクラスは「触れ合う」という姿勢や意識について学びます。クラスを通して犬に「触れる(ふれる)」コミュニケーションを持つ宿題も出ます。楽しんで今までと違うコミュニケーションを身につけていただきたいと思います。

 ドッグ・タッチクラスを受講中の飼い主さんに自宅でやってみた感想をいただきました。
「落ち着いて幸せな時間が持てた。夜寝る前に長い時間吠えていたけど、それが少なくなって落ち着いて寝てくれるようになった。以前よりも熟睡しているみたい。」という変化が見られているということです。

 ドッグ・タッチクラスは効果や結果を求めると欲深くなってしまい、なかなかうまくいきません。よく深い気持ちで犬に触れても、犬は辛い思いをするばかりです。こうあってほしい、こうなってほしいという思いは、時折自然な流れを阻害してしまうこともあります。謙虚で淡々とした姿勢こそ、ドッグ・タッチにはふさわしいものです。

 写真を提供してくれたミックスのみかんちゃん。今日で17歳の誕生日を迎えたそうです。おめでとうございます。一日一日が大切だったはずだけど、また今日一日で新しい関係が作られます。

 保護犬の中には年齢の分からない犬もいるでしょう。保護犬飼い主の特権ですから、好きなように宣言してください。犬たちは年齢は気にしていません。ただ、飼い主が健やかでいてくれることを望んでいるでしょう。

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老犬のための介護とドッグヒーリング:老犬との暮らしでできることを考える

 ご相談を受けるカウンセリングクラスの中には、老犬の介護の方法やアドバイスが欲しいというものがあります。犬をはじめて飼った方は、老犬のお世話に戸惑うことでしょう。動物医療の発達や食べ物や生活の快適性や活動量が減ったことなど、人と同じ理由で犬の寿命も少し延びていることは飼い主にとってはうれしいことですが、犬の老化や介護で動物にかかる負担も大きなものなので、できるだけ安心して過ごせるようにと飼い主さんといっしょに考えながら提案をさせていただきます。

 介護のやり方やアドバイスのために家庭訪問させていただく中に、ドッグヒーリングも一緒にお願いしますというご要望もあります。逆のパターンもあります。つまりドッグヒーリングを依頼されて介護のやり方やアドバイスにお答えするというクラスです。どちらも同じ内容になります。こちらからの押し付けではなく、飼い主さんのご希望の過程に沿いたいという形で最初の経過が違うというだけで受講料はどちらも同じです。今日はドッグヒーリングクラスについて少しご紹介します。

● ドッグヒーリングってそもそも何?

 ヒーリングという英語を日本語に訳すと「癒し」となります。犬と暮らしている人の中には、「犬に癒される」ということを言われる方も多いですね。「癒し」とという言葉自体はここ10年くらいでよく聞かれるようになった言葉ではないでしょうか。

 ところが「癒し」という世界は感覚的な世界なので説明するのも難しいのです。しかもヒーリング(癒し)というのは、あくまで人の世界で気づいてきた人の文化です。ただその文化はとても古く長い時間をかけて作られて、そして長く大切にされてきたため今こうしてここに体感することができるという事もできます。

 ヒーリングや癒しという言葉は時代の流行にもまれたり、サービスの形を表現する言葉として広がりはじめ、リラックスすることだと勘違いされているようなこともあります。確かにリラックスして安心できることは、癒しを体感したときに感じるひとつのことでもありますが、癒しの感覚はもっと深いものであると感じています。

 「癒し」とか「ヒーリング」という言葉をネットで検索して頭で理解しようとせずに、癒しとは難だろうと考えながらも、経験したり、感覚を磨いたりしていくことで一歩ずつ近づいていきます。犬として生きている犬は、癒しを知る道のガイドとしての存在になってくれます。
 

● 老犬のためのドッグヒーリングとは

 今回ドッグ・ヒーリングクラスをさせていただいたのは老犬となり家族にお世話を受けながらゆったりとした毎日を過ごしている犬くんです。数ヶ月の若いころにお世話をさせていただいたご縁です。あの小さなやんちゃ坊主がりっぱなに成長した後に人のお世話を必要とする年齢となって過ごしていることは、とても感慨深いものがあります。

 犬と人の中に流れている月日の速さの違いは、どうやっても埋めることができません。そしてそれを頭で理解することはできても、同じ時間の流れを共有することはできません。人が1日を終えるころに犬の方も1日を終えるのですが、その時間が私達人の時間にすると7日となると換算したとしても、なかなか理解することはできません。受け止めるべきことは今目の前にいるこの犬がその犬の年齢では老年期といわれる年齢に達していて、老化を受け入れつつ不自由さを少しずつ受け入れつつ、今日の一日を過ごしているということだけなのです。そのときについ思ってしまう「いつまでいっしょにいられるだろうか」「また少し老いたような気がする」といった不安や寂しさは犬には必要のないものです。

 とはいえ、そうした気持ちになるのはとても自然なことです。悲しさや寂しさが犬といるときに芽生えてしまうのも仕方のないことです。ですが同時にもっと強い飼い主の思いもあります。それは、今こうして犬といっしょにいることができるこの時間と空間を犬にとって心地良く安らかに過ごせるように協力したいという思いです。

 老犬の介護のアドバイスや老犬のドッグ・ヒーリングをさせていただくときには、飼い主さんのこの気持ちを中心にしています。その上で、ドッグインストラクターとして、またドッグヒーラーとして現実的にお手伝いできることをさせていただきます。どちらの職業名も自分にとってはどうでもいいものですが、業としてさせていただく限りにおいてはなんらかの名称が必要であるために使っているものです。犬がどのような状態であっても、自分は飼い主さんのサポーターであることに代わりはありません。

 ドッグ・ヒーリングですが、具体的には手を当てるタッチヒーリングという形で行っています。手を当てながら犬の必要としているところに応じるように手当てを続けていきます。ただ手を当てているだけなのですが、ときどき不思議なこともおきます。また、動物の治癒反応が引き出されるために、ヒーリングを受けたあとにもいろいろと反応のあることもあります。どれも必要があって起きていることで、魔法のように突然起きたわけではありません。ドッグ・ヒーリングを通して犬とより近いコミュニケーションを得る時間となります。受け取ったことは全て飼い主さんにお伝えしています。くり返しますがドッグ・ヒーリングは魔術ではなくとても現実的なことを大切とした癒しの世界のことなのです。

 なかなか文字ではお伝えすることが難しいので、飼い主さんにもヒーリングを受けていただくことができるようクラスを設けています。お試しクラスもありますので、興味本位であっても体験してみたい方はお気軽に受けてみてください。劇的なことは何も起きませんし、全く感覚のないという方もいます。ですが、受け取り手によっては何かを受け取られることもあるのです。


● 長生きは犬の幸せなのか

 犬や猫は人に飼われるようになって長生きになってきました。動物園の動物が明らかに野生動物よりも長く生存できるという理由と同じです。人が食事や生活を管理し病気を管理することで、生きる長さは長くなったという事実があるのです。人も生活の変化で寿命が延びるようです。人生50年と歌われた時代から考えると、日本人は人生85年というくらいはあるでしょうか。だからといって人生50年の時代よりも生き生きと幸せに生きているかというと以外にそうでもないと感じます。

 先に述べたとおり、犬と人は生きている時間の流れる速さが違います。だからつい欲張っていつまでも長く生きてほしいと思ってしまいます。人という動物ですからちょっとくらい欲の出てしまうことは仕方のないことだと思います。ですが欲張りが過ぎてそのことばかりに夢中になってしまうと、本当に大切なものが見えなくなることもあります。老犬になってから医療行為が過剰になる人でいう延命という作業も、やりすぎれば犬に負担をかけます。

 今、老犬と暮らしている方ならそれはとてもラッキーなことです。老犬のお世話をできるくらい犬が長生きしてくれいていることは動物としてはすごいことなのです。なぜなら、まだいっしょに過ごせる時間が1分以上はあるし、今日、明日、明後日と犬に話しかける時間もあるかもしれません。身体的な変化や認知的な変化など、犬の老いの変化はそれぞれです。どの変化もこれまで犬が歩いてきた中で選択してきたことなので、それぞれに尊重してサポートしたいものです。


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犬語セミナーで学ぶ犬の社会性:犬のパーソナルスペースは距離感から生まれる

 週末に七山校で犬語セミナーを開催しました。単純なビデオセッションながら毎回どのような学びがあるかわからないビックリ箱のようなセミナーです。


● 犬語セミナーの学びのひとつ、犬の評価とは

 犬語セミナーは初心者クラスでは犬の行動を観察して読み取りができるようになることからはじめます。参加しているうちによく見ることができるようになると、その行動を分析していきます。それができるようになると今度は犬の性質や状態の評価にうつっていきます。

 一番難しいのが「犬の評価」のところですが、今回は上級者ががっちりを参加されたので遠慮なく質問のレベルを上げて犬の評価について考えるセミナーとしました。犬語セミナーを少人数制のセミナーにしている理由は、参加者の理解の段階を把握することで質問や説明の内容を変えて、ステップアップするプライベートクラスの延長ととらえているからです。

 数十人が集まるセミナーの講師をさせていただくこともありますが、どうしても表面的なことになってしまいます。深く伝えようとすると多くが理解できないままに終わってしまい欲張って未消化セミナーになってしまった反省もあります。おひとりおひとりの理解度を把握するにはやはり直接質問して答えていただくしかないというのが今のクラスの形式につながっています。

 犬の評価についてですが、ここでいう評価とは競技会やテストでの合否とは全く違います。どれが正しくてどれが間違っているというものでもありません。また誰かと競って順位を争うものでもありません。犬はそんなことに関心はありませんが人は競うことに快感を覚える動物かもしれません。

 犬の性質はさまざまです。そのどれもが個性であり、性質に正否はありません。その犬の性質をある程度理解しておくことは、犬の必要性を理解して接し方や環境整備を行う上で必要な情報です。犬の人為的に繁殖をくり返した結果、犬は非常にバラエティにとんだサイズや形に変化していきました。その中で犬に起きている犬の負担についてもきちんと知る必要があります。

 犬の行動評価の中には犬の発達と成長の段階の評価というものもあります。実はこれが一番大切な大切な評価です。飼い主さんがもっとも影響を与えるところであり、飼い主次第でいくらでも発達と成長の速度や内容を変化させていくことができるからです。その成長と発達の中でも重要事項の中にひとつに入る「パーソナルスペースの獲得」が今回のセミナーの焦点でした。


● 犬語セミナでの今回の学びは犬と犬の行動が作る距離感とパーソナルスペース

 グッドボーイハートの生徒さんなら上記の小見出しを見たらまず「えー、私も受講したかった」と思われるのではないでしょうか。犬がどのようなステップでパーソナルスペースを獲得しているのか、犬がパーソナルスペースをつくっていない状態をどのような行動で表現しているのかなど、犬のパーソナルスペースの発達に関する行動は、日々の生活の中でいつも見ることができるからです。

 パーソナルスペースという言葉は、分離不安と同様に人の心理学で使用されている言葉ですが、わかりやすいのでこの言葉を使用しています。動物にとってのパーソナルスペースの重要性についてはいうまでもありません。自分の最も小さな領域ということで、言い換えればもっとも小さなテリトリーということもできます。この領域を守るのは自分を守ることであり、また他者との安定した関係性をつくる基盤にもなります。言い換えれば、パーソナルスペースが獲得できていない犬は、他者に対して依存的になるかもしくは過剰に防衛してしまうのです。

 たとえば、分離不安傾向のある行動がでている犬は、当然のことながら安定したパーソナルスペースを獲得できていません。獲得するというのは成長と発達の中で形成できていないということです。つまり、パーソナルスペースの形成は成長と発達の過程で最重要事項なのです。

 このパーソナルスペースですが、分離不安の例でもわかるように距離感がはかれるかどうかという風に見ていくとわかりやすいのです。犬語セミナーのビデオでは犬と犬の距離感がどのようにとられているのかを見ながら、その犬のパーソナルスペースの形成について学びました。

● 犬のパーソナルスペースが形成されていないのはなぜか

 パーソナルスペースは1才半ころから安定をみせるようになります。もしそのパーソナルスペースが形成されていない状態であれば、うちの犬はなぜそうなったのだろうと思いにふけってしまうかもしれません。それにはたくさんの理由がありますが、一番影響を与えたのは幼少期もしくは現在犬に接している人の接し方にあります。

 接し方といっても普段から犬に接するのをすべて接し方といって漠然すぎるかもしれません。どんなことも接し方です。たとえば、犬を自分の体の上に乗せて寝ている、犬を抱っこする習慣がある、犬を抱きしめたりはぐしたりするのが好き、犬の頭に手を当てて撫でているなど、どの例も犬のパーソナルスペースを侵す方法であり、パーソナルスペースの形成を阻害しています。

 犬が寝ていると犬の近くに寝たり犬の体に触れて寝ようとする人もいます。犬にパーソナルスペースの形成がなされていれば、犬は自分から距離をとって別の場所に寝ようとします。ところが犬も同じように人にべったりとひっついて寝てしまようであれば、犬はパーソナルスペースの形成不全とみなされます。同じく人もパーソナルスペースの形成が不安定というお知らせですので、犬を触る以外の方法で安定をはかれるようにいろいろと工夫をしてみてください。たとえそれが抱き枕であっても、犬に抱きついて寝るよりはよいかと思います。犬の成長を阻害すれば犬は不安定な状態を強いられるからです。

●他のパーソナルスペースについての過去のブログはこちらからご覧ください。

・犬のパーソナルスペース

・犬のパーソナルスペース<つづき>

・犬との正しいあいさつを知っていますか?

犬と犬をオンリードで会わせてはいけない理由

・ゴールデンリトリバーによる子供の死亡事故について:もっと深く考えることで見えてくる犬の姿

・ゴールデンリトリバーによる子供の死亡事故について:もっと深く考えることで見えてくる犬の姿2


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犬とのトレッキングクラスで学ぶ:犬の行動の落ち着きとストレスの区別

 梅雨らしく雨が降らないのも困りますが、週末の犬といっしょの山歩きクラスができたのはありがたいことです。トレッキングクラスのあとは犬語セミナーを開催しました。常連だけのセミナーとなり内容もとても濃いものとなりましたのでほんの少しだけ紹介します。


●犬語セミナー前の山歩きクラスの様子

 植林から10年たって森が急に変化しはじめました。ずっと目的をもって続けていくと何かが途中で急に変化しはじめるのは、犬の成長と同じです。その裏の尾歩山(おぽさん)の手入れをしながら山道を一歩ずつ登っていく犬との山歩きは、一秩序を保ちつつ緩やかにときが流れていきます。好き勝手に伸び続ける木々の混乱した尾根部分の手入れを続けるとやっと風が通るようになり、風を受けてじっと立っている犬の姿を見ているとなんとなくほっとしてしまいます。

 犬との山歩きを山遊びを間違えてしまわれることもありますが、犬が山を歩くときはとてもゆっくりとしています。途中で森の手入れのために立ち止まっても、犬たちも同じように立ち止まっています。休みをとる犬は伏せていることもあるし、作業を見守る犬もいます。倒れた竹が壁となってしまうのでこれらを取り去るためにガサガサをする作業中には、自分の安全をキープしようと構えをとる犬もいます。

 いずれにしても犬はみな協力的でわたしたちの作業を邪魔しようとはしません。犬の行動をずっと観察していると、人の山の手入れによってより環境が安定することを少しの変化で読み取ってくれているように感じたこともあります。もちろん犬により様々ですが、結局犬は人の行動をよく観察するのだなというのをいつもながらに痛感します。山といっても里のすぐ上の山です。

 人はずっと山を利用して生きてきました。食べ物に限らず生活道具にしてもそうです。家だって木と土でできています。人が利用すると山は荒れていきます。だからずっと手を入れ続ける必要があります。そうされていない場所は環境が乱れて混沌としています。尾歩山からはその無残な姿が見える場所もありますが、少しずつですができるところから手入れを続けていこうと思います。そしてその場に犬が共にいてくれることが、本当に心強く感じられるのです。


● どの犬も山ではゆっくりと歩くことができるのか?

 犬のストレスが蓄積されているときには、行動や穏やかではありません。犬はストレスを発散する行動をしてしまいます。山に入ると土や森のにおいに興奮してしまい、走り回ったりリードをひっぱったり飛びあがったり落ちているものを次々に口の中にいれてしまったりします。こうしたストレス行動が出てしまうのは、今の環境があまりにも犬にとって厳しいというお知らせです。ところが山で走り出すのは危険です。木々で目をついたり転んだりすることもあります。もしくは、他の野生動物や昆虫など危険な生き物の攻撃性を引き出してしまい、大ケガをすることもあります。
 
 犬に自由行動の時間を与えるとこうした興奮行動が予測されるため、ドッグランなどの遊び場では障害となるような椅子はテーブルは敷地の脇の方においてあります。ドッグランという名前のとおり、その柵の中で犬のリードを放したら、犬は走り回ってしまいます。そのため、事前に犬にとって危険なものを取り去っておく必要がありです。その運動場のように整備された平坦な地面の上を犬は走り回っているということです。しかし、そもそも犬が円形に走り回ること自体がストレス行動であるのに、そのストレス行動をさせるためにわざわざドッグランに連れて行くのも不思議なことです。

 犬との都会暮らしの経験のあるわたしも月に数回でしたが犬を山に連れてくると最初は興奮を抑えておくことが大変なことでした。長くそこに過ごしているとやっと落ち着きを取り戻して今からというときに帰宅の時間となり、犬にはさらにストレスを与えていたと申し訳なく思っています。いつも犬と過ごす場所で他人や他の犬と出会わないようにと、場所選びにも難航しました。七山校に移った理由のひとつには、生徒さんたちが安心して山での時間を過ごせる場所が欲しいということでした。


● 犬の行動が走り回り行動から落ち着き行動に変化していくために必要なこととは

 日帰りであってもくり返し山歩きを続けていくと、山での過ごし方は変わってきます。歩く速度は飼い主の影響を受けやすいため、飼い主側で安定した速度をキープしてあげるといいのです。頂上や特定の場所に到達することを意識しすぎるとどうしても早歩きになってしまいます。作業をしながらのぼっているのは、その場その場で立ち止まることを犬にわかりやすく伝えるためです。作業をするためにしっかりと地面に足をつけて立つ必要もあり、人が安定して立っていることを犬に伝えることにもなります。

 犬の安心は安定から得られています。その安定に影響を与えているのが人の安定度です。落ち着きといえばもっとわかりやすいでしょうか。どのような時に落ち着いていますか?という答えに対して多いのは、落ち着いている人のそばにいるときというものです。落ち着きは影響を与えやすいのは、時には利点となり時には欠点となります。飼い主が落ち着きを失うと犬も落ち着いてしまうという欠点です。良い方向に影響すれば、飼い主が落ち着けば犬も落ち着きを学び始めます。

 学習というと何かの号令を出してそれに従うことだけと思われがちですが、そういうことでもありません。落ち着く行動をくり返すとそれが気持ちの習慣になり次第に身に付いていきます。犬も同じように、落ち着いた行動をくり返していくと次第に落ち着いた行動をするようになります。それが集団になるとますます影響力が強くなるから不思議です。単位が2から3になるだけでかなり変化してしまうのです。力の法則なのですが本当に不思議だなと感じています。

 話を元に戻します。犬との山歩きで学ぶことはいつもの生活と同じです。ストレス行動はできるだけ管理しながら減らしていくこと、そして落ち着き行動は管理をゆるめながら増やしていくことです。単純なようですが料理と一緒でさじ加減が難しいのですね。もちろんインストラクターであるわたしが指導しています。今は管理のとき、今は少し様子をみるなど少しずつ覚えていただければそのさじ加減も身に付いていきます。犬が落ち着いて山を歩く姿をぜひ見てそして感じてください。ゆっくりした時間が犬の中に流れていることを知ってください。

 次回は、午後のクラス「犬語セミナーでの学び」をご紹介します。

ショコラ尾歩山



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