グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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犬のジェイとオオスズメバチ【前編】

自然という環境の中で犬といっしょに活動することにはたくさんの楽しみがあります。中でも貴重な体験は、犬が野生の生物たちとどのように関わるのかを見ることが出来ることです。

先日出版したグッドボーイハートの本の中にも、犬のオポがヤマカガシというヘビと遭遇したときの様子について書きました。よくいう「もし犬が○○に出会ったら」とか「もし犬が○○と戦ったら」みたいな感じでいろんな想像をするのですが、その想像を超える現実が目の前にあったら本当にドキドキが止まりません。そして今回は、犬のジェイとオオスズメバチについての話です。

黒ラブのジェイは山の学校で暮らし始めてから10ケ月が経ちます。しかしまだ一シーズンも超えていないので、出会う生物も植物もみな彼にとっては新しい対戦相手ということになります。

ジェイは生後一歳九カ月まで訓練施設に入っていました。ジェイの子犬時代について詳しくは聞いていないのですが、ジェイの山に来たばかりの体の使い方を見る限りでは、ジェイは山で過ごした時間はほとんどないのではないかと思っています。都市空間で育ったジェイが山の中で出会う生物にどのような反応を見せるのか、見逃してはなるものかと真剣に見守っています。

先日、オポ広場にジェイと預かりの小型犬の二頭と共に過ごしていました。どちらも草を食べることが多く、この日も地面をくんくんと嗅ぎながらそれぞれにお気に入りの草を探して歩いていました。私は日陰を見つけて腰を下ろし、二頭の様子を伺っていました。

すると、ジェイが数本のクヌギ(どんぐり)の木の下で、突然自分の大腿部あたりに鼻先を向け、次の瞬間には上を見上げました。この反応は、「誰かに攻撃を受けた、しかもそれは上からやってきた」です。そしてくるりと回ってもう一度上を見上げました。

この反応が特に大きな動作だと感じた私は「スズメバチか…」と予測し、「ジェイ、カム」と呼びの合図をかけて私の方に引き寄せました。私とジェイの距離は20メートル位です。何かの虫に集中していたジェイは、一回目の合図には反応しませんでしたが、二回呼ぶとこちらに走ってきました。

犬が虫などの生物に対してやっていることを止めるべきか見守るべきかは、瞬間的な判断が必要です。全てを止めるべきではないが、状況によっては管理も必要です。スズメバチはこちらが攻撃すると反撃に転じることもあります。それが一匹ではなく複数になることも想像されるので反射的は攻撃はデメリットが多すぎると判断した上で、合図での管理をしました。

ジェイが私の元に走ってきたあとに状況を確認しようと立ち上がると、ジェイが再び木の下に走っていきました。そして、木の下で顔を上に向けて回っています。鼻先で危険な何がなんであったのかを確認しようとしています。一旦は私の元に来たもののすぐに戻っていくということは、ジェイは攻撃を受けた何かに執着している状態だったということです。それが何であるかを確認するという作業がまだジェイの中で続いていたということです。

犬が自然環境の中で危険を感じることなどよくあることです。その危険度も低いものから高いものまで様々にあり、危険度の高さは攻撃を受けた度合い、その気配の音や色やにおいなど様々な情報によって決められます。ジェイの頭上で飛ぶ昆虫は樹々の間に隠れて目視することはできません。おそらく音と臭いが気配となって伝わってきたはずです。

これらの対面は、当然のことながら経験の多いものは落ち着いて対応し、経験の浅いものは興奮してしまいます。自然環境での活動が未熟なジェイの動きは、興奮が高い上に執着が強く、これ以上の探索は危険だと私が判断しました。ジェイを再び呼び寄せて、遠くの木に係留しました。

もう一頭の犬はこの全ての状況に全く気付いておらず、草をにおう散策を離れた場所で行っていたので混乱を避けるためにこの犬の方には声をかけずにそっと現場に近づいて状況把握を開始しました。

そして木に近づいてビックリしてしまう風景を見たのです。クヌギの樹木のちょうど私の目線よりと同じくらいの高さに、三匹のオオスズメバチが集まって活動しているのです。オオスズメバチといえば世界最強のスズメバチです。ご親切なことに黄色と黒色のはっきりとしたボティで「危険ですから近づかないで下さい」とメッセージをくれています。

これはまずいです。絶対にピンチの状況です。振動に敏感なオオスズメバチを刺激しないように、すばやくしかも静かにジェイのところへ戻って首輪を持ち、同時に小型犬の名前を呼んで出口の方に移動を始めました。

ところが、いつもはすぐに走って来るこの小型犬くんが草に夢中になっているようで私の合図に気が付きません。オオスズメバチを恐れて大きな声を出せなかったのもありますが、とにかく早く広場を出なければと、念を入れて名前を呼び続けるとはっと気づきこちらに走ってきました。そして二頭とわたしは無事に、広場を出ることができました。

しかし、オポ広場はオオスズメバチに占領されたようなものです。

オポ広場を奪還せよ!

ミッションがスタートしました。後編に続きます。