グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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犬のごほうびトレーニングの落とし穴:「ごほうびがないとしないんです!」という方は必読です

 トレーニングクラスのときによく聞かれる質問にはこんなものがあります。「ごほうびを見せないと犬がオスワリをしないんです…」

 ごほうびトレーニングの落とし穴にはまったようです。ごほうびトレーニングはきちんと理解して使わなければ、罰を使ったトレーニングと同じように危険性があります。今回はこのごほうびトレーニングついてお話しします。


●ごほうびトレーニングって何?

 10年以上前になりますがグッドボーイハートで満席御礼になったセミナーがあります。たしか「ごほうびトレーニングの落とし穴」という名前で開催しました。当時は犬にごほうびを与えるトレーニングが流行っていた時期だったので、当校でも報酬を用いたトレーニングを導入していました。しかしこのごほうびトレーニングは注意して使わないと、大変な落とし穴にはまってしまうという危険性についてお話したものです。

 好評だった理由の中には単純に「ごほうびトレーニングに違和感を覚える」というものもありました。確かにこのトレーニングは一部の方にとっては違和感のあるものなのです。その違和感を大切にして、なぜこんな風にざわざわした感じになるのだろうと思ったら、ぜひこの機会にごほうびトレーニングの真実について考える機会としてください。

 ごほうびトレーニングとは、犬に行動を起こさせるために「報酬」=「ごほうび」を用いるトレーニングです。行動学の分野での正式名称は「正の強化トレーニング」、心理学の分野では「陽性強化トレーニング」と名づけられています。この報酬を用いて行動をさせる学習の心理について分かりやすく説明したのはBFスキナーという行動学者でした。スキナーが流行った時代はまさに行動主義の全盛期です。もちろんこれらの学問は人に対して起きたものです。しかしどのような学問もその学問を定義づけるためには状態を再現させるためのくり返しのテストが必要です。このテストにはたくさんの動物も使われています。たとえば古典的条件付けの実験に犬が使われていたのはご存知の方も多いでしょう。そう、パブロフの犬のことです。

 スキナーの学問の中でこのごほうびトレーニングに当てはまるのが、オペラント条件付けという学習過程です。オペラント条件付けによる学習は、行動の後に「報酬」もしくは「罰」が出たりなくなったりする原理によって成り立ちます。学習の過程は以下の四つです。

1 正の強化
2 正の罰
3 負の強化
4 負の罰

このうちの、正の強化のことを陽性強化=ごほうびトレーニングといわれています。
陽性強化トレーニングでは、犬が行動を起こすと報酬が出ます。こんな方程式になります。

  犬にオスワリという → 犬が座る → ごほうびを与える

上記のオペラント条件付けの陽性強化法を実践の行動トレーニングで使うためには、いくつかのポイントをくわえる必要があります。たとえば、ごほうびは時々与えるにすることとか、行動を起こした後にごほうびの出る合図(特定の音)をくわえておくことなどです。ここではごほうびトレーニングを実践していただく説明ではないので、これらは割愛させていただきます。


●ごほうびトレーニングの落とし穴のひとつ「オヤツがないとしないんです。」

 このごほうびトレーニングの落とし穴のひとつめは、犬がオヤツを見せないと行動を起こさなくなるというものです。自己流で始めた方の多くがこの落とし穴にはまっています。たとえば、オスワリといっても座らないがオヤツを手に持つと座るとか、オスワリといっても座らないがオヤツをポケットにいれる様子を知ると座る、オスワリといっても座らないがオヤツの臭いを感知すると座るなどもこの例です。

 これらはごほうびトレーニングの鉄則である、ごほうびを時々にするという約束と、ごほうびを見せずにするという約束、ごほうびを直接与える前にほうびの出る合図を与えておくというポイント制にしなかったことが失敗の理由です。ごほうびを見せてもしなくなるパターンには、報酬のランクを吊り上げていくような状態になっていることもあります。最初はドッグフードでしたがそのうちしなくなる、次はジャーキーを見せるとするがそのうちにしなくなる、次はチーズを見せるとするがそのうちにそれも効果がなくなるというものです。

●なぜ、ごほうびがあるのに行動をしなくなるのか?

 こういう落とし穴にはまってしまう明らかな理由は、もうすでにごほうびは報酬ではなくなくなっているという事実です。この段階になるとすでにこれは報酬ではなく賄賂です。事前に千円札を見せられてそこに座ったら千円を上げるよといわれたら最初は誰もが椅子に座るかもしれません。そのうち千円では座らなくなり、一万円札を提示されると座るようになります。しかしそのうち一万円札も価値がなくなってしまうことがあるのです。自分の身に置き換えて考えるとわかりやすいのです。

 中には、一万円ももらえるならなんどでも椅子に座るよという方もいるでしょう。ですが、これを関係性と捉えたらどうでしょうか。あなたに一万円を見せてなんども椅子に座るように申し出る人に対して信頼関係を結ぶ自信がありますか?むしろ、一銭もお金を持っていないのだけどどうしても今必要なことなのでこの椅子に座ってほしいと頼まれ、椅子に座るとありがとうといわれるほうが物事を頼んだ人との関係性を重要視したことになります。

 それは人間のはなし、犬はいくらでもごほうびをもらいたがると思うかもしれません。確かに犬の中には大変拘束されている状態が強く、人との関係性についての関心を失っている犬もいます。完全管理の状態が犬にとっては人の奴隷のような状態になるため、非常に不安定でただ欲求が食に偏ってしまうからです。しかし、犬の中には人との社会的な関係に関心を失っていない犬もいます。これらの社会的欲求をある程度備える犬達は、報酬を提示されて行動を起こすことや、報酬の予想させて行動を起こさせるどのようなごほうびトレーニングにも異質な行動をとるようになります。わかりやすいケースでは行動をしないというもの、微妙な反応ではそのごほうびトレーニングのあとにストレス行動を行うという場合もあります。若干の拒否反応や人への関心を失い始めるのもその傾向を示しています。

●大切にしたいのは何か

 さて、そこでもう一度考える必要があります。犬にオスワリやマテを教えて行動を起こさせたいのはなぜでしょうか?犬におりこうさんになってもらいたいから、人におりこうさんな犬だと自慢したいからでしょうか。逆に、犬と良い関係を築いていきたいからでしょうか。もし、あなたが犬に何かを教える理由が、犬とより良い関係を築いていきたい、自分の犬にとっての最大の理解者でありたいと思うのならお伝えしたいことがあります。

 ごほうびトレーニングの落とし穴にはまってしまい、ごほうびを見せないとしない、ごほうびの合図がないとしない、ごほうびで行動をさせたあとに違和感が残るのなら、それは犬の方もあなたとより良い社会的な関係を築いていきたいという高い欲求を残しているシグナルです。あなたの犬はまだ報酬の奴隷には成り下がっていません。だからぜひそのことを喜んで新しい関係を築くチャンスを掴んでください。

 ごほうびトレーニングは犬の学習過程の中でいつの間にか導入されています。人もいつのまにかごほうびで強化されていることがあります。ポイントカードなどはごほうびトレーニングの良い例です。しかしそれが関係性に影響を与えるとなると抵抗を示すのも社会性の高い動物である人としてはナチュラルな反応なのです。ごほうびトレーニングで社会的関係は築けません。会社で一定の給与をもらっていても、その仕事に没頭してがんばれるのは、仕事を通して何かを身につけたり人との関わりを通して自分の中に得られる内的動機付けがあるからです。そうでない場合は仕事はただお金を得るだけのつまらない時間になってしまいます。

 ごほうびトレーニングの落とし穴、まだまだありますので少しずつ紹介していきます。


カレン0612