この秋、栗林で毎日のようにうろつくイノシシを追うようになった犬のジェイ(黒ラブ3歳)の記録を先日のブログで紹介しました。
ブログ記事:令和八年の秋、イノシシ追い犬になる犬のジェイ
里山に暮らす私にとっては野生動物との遭遇というのは珍しいことではありませんし、山歩きやキャンプを趣味にしている人なら活動中に野生動物と出会ったり、見たり、気配を感じたことは必ずあると思います。
犬は人よりも敏感に野生動物の気配を感じ取って反応をするため、犬がいることでその危険性をいち早く知ることができるのは大変なメリットです。もっと言えば、そのために自然活動に犬を同伴させているといっても過言ではありません。
ところがこれに反する事実があるのです。それは、犬が野生動物の気配を感じたり察したとき、動物を追って走り去ってしまうという事実です。このヒヤリとする経験を山歩きやキャンプなどで経験したことのある方もいると思います。いつもはリードをつけて管理しているはずの犬を広い場所や他人がおらず車のない“安全な自然”で油断してリードを置いたり緩めたりしたときに限って犬が走り出したという経験です。
山の中で勢いよく走り出した犬は、茂みの中や森の中に野生動物の気配を感じとった可能性が高く、実際にそのような場面に出くわした人の話によると目の前を鹿が走ったのを追っていったとか、ちょっとリードを置いたら山へ走ったなどといったことを聞いたことがあります。本来なら、犬がいることで野生動物の情報が得られて「安全」になるところを、逆に野生動物との距離が縮まることが「危険」となってしまうという真逆の結果になります。
では、イノシシを追ったジェイの行動に戻って考えてみます。裏山を背にする里山の家で犬と暮らす私が最も恐れていることは、犬が野生動物を深追いしてしまうことです。深追いというのはその言葉のとおり、野生動物に執着して動物をしつこく追うことです。その行動とは、動物を追って走り出し追い続けることだったり、野生動物の足跡を嗅ぎながらゆっくりと追うことでもあります。速度は別として、深く追うのであればそれは私の定義では「深追い」ということになります。
今回、栗林を荒らすイノシシをジェイが追う行動の観察結果では、ジェイはイノシシを追ったが深追いはしませんでした。ジェイが立ち止まる最後の地点は、共に行動をしている私たち人間(家族)の立つ場所によって変わりました。そこにはいくつかの見えない境界線があり、私たちがその境界線を超すたびにひとつ先の境界線で停止するというように行動をしていました。
このジェイの境界線で停止しイノシシを深追いしなかった行動は私の求めていたものでしたが、それが実現できるかどうかを確認するためには野生動物との距離が縮まるタイミングを待つしかありませんでしたが、今回はそれを確認できました。といっても遭遇したのはたったの数回です。繰り返すことで(反復することで)安定した行動の再現性が高まることになり、結果として安心を得られます。
しかしジェイには事前学習の機会がずっとありました。彼がいつも食べている山のふもとの柿の木の下にはいつもイノシシが荒らした気配があり、ヤギがうろつく裏山の入口にはイノシシの糞便が落ちているのは日常です。山を少し奥まで歩けばそこにはイノシシのにおいの痕跡がたくさんあり、以前にもブログに記録した木に傷をつける牙かけやラッセル痕は人が視覚的に得られるイノシシの痕跡であると同時ににおいも残された犬にとっての情報源でもあります。
ジェイはそのイノシシの痕跡をいままで一年以上嗅いでいたものの、イノシシ本体には出会ったことがないというところからスタートしているのです。私の方はイノシシに出会ったことがなくとも画像や動画でイノシシを見たり想像することはできます。運転中に出会った瞬間に「ああ、これがイノシシなんだ」と認識できます。でも犬のジェイの方は事前にそのようなことを知らないのに、イノシシのにおいの痕跡からそのサイズや様子を知らなければならないのです。
これは犬に聞いてみないとわからないことですが、お互いにすれ違う可能性のある動物だったり、もしくは遠い昔に食べることのできた動物として遺伝的な情報としてある程度は持っているのではないかと推測しています。
話を元に戻しますが、イノシシのにおいの痕跡を嗅ぎ続けたジェイですが、この一年間、決して私から離れて動物を深く追ったことはありません。野生動物の痕跡はずっと続いていますのでそのにおいをたどっていくことはできるはずですが、それよりももっと執着しているのが私との距離感だったのではないかということです。
私との距離感といっても、ジェイが2歳前で私の家で共に住むようになってから経験と時間をかけて少しずつ距離をとって活動できるようになったのであって、いきなりリードを外して自由行動をさせてきたわけではありません。
山の中で野生動物を見て走り出す犬がいたとして、その行動を人と比較してみたらどうでしょうか。山の中で野生動物と遭遇した人が、驚いて山を駆け降りる行動をとることがあったとしても動物に向かって走り出す行動をとる人はまずいないでしょう。ここが犬と人の大きな違いです。
山で出会った野生動物を犬が追うのは犬なんだから当たり前だと思いますか。もし犬だから野生動物を追うのは当たり前だと考えるのだとしたら、その理由は、つまり犬にとっての目的は何なのでしょうか?イノシシを捕食するためにイノシシを追って走り出したと考えるのか、イノシシが怖くて衝動的い走り出したと考えるのか。犬が野生動物を追う行為が当たり前だと考えるほど答えが見つかりません。
私は、この行動は当たり前ではなく犬としては不自然な行動だと考えています。動物は行動をした結果、利益か不利益を得ます。山にいたとしても、里にいたとしても、出会った動物を犬が走り出して追う行動には大きな不利益が伴います。特にそれが自分の群れと共にいた場合には大きな損失です。犬の走り出す行動によってその群れと分かれる結果となるかもしれないからです。別の損失はイノシシが振り返って攻撃に転じた場合です。別の損失では自分が崖から落ちて怪我を負うという可能性もあります。
では、このような不利益を得る行動をどうして犬はするのでしょうか。そしてそのような危険な行動をさせないようにするためにはどのようにすれば良いのでしょうか。ぜひ考えてみてください。

山で柿を食べるジェイ



