グッドボーイハートは人と犬が共に成長して調和することを目指すドッグトレーニング・ヒーリングスクールです。

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犬の衝動的な行動は危険であること:庭先に出現したウリボウを想う

今朝、七山校で窓を開けているときに、動物がまた栗を拾って食べている風景を見ました。

最近、落ちている栗やら柿などの食べ物を、いろんな野生動物たちが食べにきています。

最初は「ああ、また何か動物が来ているのね」と単純に思ったのですが、いつもと違う感じに一瞬注目してしまいました。
アナグマかと思ったその小さな動物の背中に、縞々の模様が入っていたからです。

窓の向こうにいた動物は、よく見るとウリボウでした。
ウリボウはイノシシの子供です。
瓜のような縞模様の柄をしているのでウリボウという愛称で呼ばれています。

ウリボウを見かけたらすぐに次のものを探します。
お母さんイノシシです。

ウリボウの柄がある年齢のときには、母親のイノシシといつもいっしょに行動しています。
ひとりで行動できるようになると、親離れをして単独行動をするイノシシ。
そのころにはこのウリ柄がなくなっています。

母親イノシシは5,6頭のウリボウたちを引き連れて行動しています。
移動の際には母イノシシを先頭しにして、一列に並ぶように歩いているのを見たこともあります。


この窓の向こうにいるウリボウは、母イノシシからはぐれたのでしょう。
この年齢で母イノシシの群れから離れてしまうと、ひとりで生きていくのは困難なことです。
それなのに、まだ母イノシシから離れたことを気づいていないのか、のんきに栗を食べています。


ウリボウがひとりで生きていけない理由は、自律に必要な学習を終えていないこと。
自分の身を守る防衛行動が不足しているために、他の動物に襲われやすいことです。
ウリボウを食べる動物は、タヌキ、イタチ、キツネ、トンビ、カラスと山の中にたくさんいます。

ウリボウが母イノシシから離れてしまった理由は、ただひとつです。

母イノシシが移動するときにそれに気づかなかったのです。
何かに夢中になっていたか、栗を食べるのに夢中になっていたのかもしれません。
もしくは、栗拾いをするうちに母イノシシから自分が離れた可能性もあります。

母イノシシは移動の際に多少はウリボウの集合を待ちますが、
すべてのウリボウを集合させることはできません。
なにしろ、1頭の母イノシシが数頭のウリボウを管理しているのです。

1頭の自分勝手な行動をするウリボウを捜していたら、他のウリボウまで危険にさらしてしまいます。

母イノシシの動きをよくみていなかった衝動的に行動してしまったウリボウは
そのまま置いていくことになるのです。

こうした衝動的なウリボウは、他の動物に食べられたり、餓死してしまいます。

そのためこうしたウリボウが子供を残すことはなく、この遺伝子は受け継がれません。


これが動物の遺伝の仕組みです。

動物はより安全に行動できる動物の遺伝子を、次の世代につないでいきます。
そうすることが種の継続につながるからです。
衝動的な動物は途中で死に絶えてしまうため、自然界では遺伝子を残せません。

厳しいと感じられるかもしれませんが、これが自然界の動物のしくみです。


そこで犬のことを考えます。

犬はとても衝動的に傾いています。

なぜなら、犬の繁殖には人の「好み」が反映されて人為的な繁殖がくり返されているからです。
純血種の犬は、まさにこの好みのために繁殖された犬たちです。

これらの犬は囲われた敷地や室内で飼うことを前提にしています。
衝動的であっても野生の世界のように、淘汰されてしまうことはありません。

人の好む犬の外見は、小さいもの、鼻の短いもの、脚の短いもの、毛質の異常なもの、大きすぎるものが
多くなっています。
これらの形質は犬という動物からはかなりかけ離れているため、遺伝的には非常に危険な濃い血液で作られています。
そのため精神的にも身体的にも、不健康な犬ができてしまいます。

本来の自然な動物であれば危険な衝動性も、淘汰されることなく犬たちの中に残されてしまいます。

犬は急に走り出したり、走り回ったり、とびついたり、ギャンギャンと吠えることが多くなりました。

めったなことで声を出したり急に走り出したりすることのない野生動物のような慎重さはなくなっています。

それだけに犬は自分では安全を確保することが難しくなっています。


犬を飼う人はこう考えるかもしれません。

犬は人に飼うために生まれてきた動物なのだから、囲いの中で安全であればそれでいいのだと。
犬は走り回ったり、とびついたり、ギャンギャンと吠えている方が可愛らしいのだと思うかもしれません。

犬の身になって考えるとどうでしょうか。
環境の変化に驚いたり敏感になったり、ストレスを抱えやすくなっている犬の立場に立ってみます。
衝動的な行動がくり返されて学習行動となり、いつも脳がハイになっている犬の立場に立ってみます。

やはりこれは、とても大変な生き方になってしまうと思うのです。

すでに繁殖されてしまい生まれてしまった犬たちには、
少しでも環境整備を通して、落ち着きを取り戻すための方法を身につけていってください。
それが犬のストレスを軽減させる方法であり、犬が安心を獲得する方法です。

これから犬を飼う方には、興奮しやすく衝動的な犬ではなく、落ち着いて自律する力のある犬を求めて欲しいと思います。

繁殖をする側は、犬を飼う人が求める犬を繁殖させているだけです。

興奮しやすく衝動的な犬は、走り出したり突然攻撃したりします。
よく吠えたり奇声を発したりします。

こうした犬を迎えて悩んでいたとしても、それを繁殖した方のせいにしても何も変わりません。


人為的な繁殖による犬の内的な質の変化について、犬を求める飼い主の方々もいっしょに考えていただければと思います。


dav

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間違った犬用オムツの使い方:犬という動物を犬として尊重するためにために

犬用オムツというペット用品があるのをご存知でしょうか。

犬用オムツは犬が室内飼育などで長生きをするようになることでできた商品です。
老犬の犬用オムツの使用については、犬に負担のないようにすることを前提に
犬を衛生に保ちストレスを軽減させるために役立てることができます。

犬用オムツでなくとも赤ちゃん用のオムツを犬用に改良して使うこともできます。

病気などで介護が必要になった犬たちのケアのためにも必需品です。


ところが、この犬用オムツの使い方についてあえて苦言を呈したいことがありました。


実は先日、犬用オムツ商品のコマーシャルをネットで見て愕然としました。
そのCMではペット用品で犬用であることを提示しながらも、オムツという言葉は一切つかっていませんでした。
用途はオムツなのですが、名前はマナーなんとかというように変えられていたのです。

CMの映像では、そのマナーなんとかいうオムツを着せられた犬が飼い主といっしょにリードでお出かけをするというものでした。

なんと、そのマナー用のオムツを着けていれば、どこで排泄しても大丈夫、どこでもいっしょに行けるねというイメージの商品だったのです。


同じような風景を、これまでも街中で見かけたことはあります。

犬を連れて入れるペットやショップの中で、マナーベルトといわれるオス犬用の腹巻のようなベルトです。
ベルトの中には婦人用の整理パッドを入れて使うようになっています。
オス犬が脚をあげマーキングをしても室内を汚さないという理由でつけているのです。

このマナーベルトの装着はもちろんビックリすることですが、
一部の犬という動物への知識が不十分な場合の対処法なのかと思っていました。

ところが今回、衛生用品の大手会社が堂々とコマーシャルしていたの内容を見て愕然としました。


老犬は介護犬で排泄行動が機能不全に陥っている犬の助けのために犬用オムツを使うことは、動物の立場からみても健全なサポートです。

しかし、排泄行動が適切に行われる犬に対して犬用オムツを着けるのは、動物の尊厳に反します。

犬用オムツというと体裁が悪いからなのか、マナーベルトとかマナーパットと称して、
いかにもマナーを守っている良い姿勢としてアピールするのは全くの検討違いです。


オムツをはめないと不適切な場所で犬が排泄をするのは次のような理由があります。

・犬の不適切な場所での排泄は犬のストレス行動である

・犬は生活環境(生活テリトリー)を汚さない動物であり、排泄は生活環境では行わない
※室内でしか排泄できない犬や、室内でしか排泄の機会が与えられていない場合には
排泄場所の再検討と再教育をすすめます。

・犬は移動中、飼い主の管理の元では不適切に排泄をしない。
※犬にとってマーキングは自分のテリトリーを主張する行為。犬が生活環境を離れて移動の際には、飼い主がリードで管理した上で、適切な場所を確保して誘導することで排泄行動が成立する。

・犬は車などで生活テリトリーを離れて移動する際には、適切な排泄場所を確保できるかどうか事前に確認しておく必要がある。犬に排泄を必要以上にがまんさせることと、不適切な場所でマーキングをしなければいけないように追い込むことは飼い主としての環境を整える準備が不十分である。


犬はどこにでも排泄を垂れ流すような動物ではありません。

犬は人と行動を共にするときには人と同じく社会的な行動を要求されています。
犬が社会的に行動できるよう成長していないのに、外出に連れ出すことが、
犬のストレスになることを飼い主は理解する必要があるのです。

犬が未熟で抱っこされないと落ち着かないような赤ちゃん犬なのに、
ドッグカフェやレストランなどに連れ出すのは不安になることを理解しましょう。

犬は成長と発達の機会を与えられる必要のある動物です。
また、それを与えるのは飼い主である自分しかいないことを知ってください。


犬の成長と発達は、犬をほめたり叱ったりすることではありません。

飼い主には毎日一定時間を犬と共に過ごす空間と時間といった環境が必要です。
犬育てにはお金以上に、時間と手間が必要なのであり、それが犬育ての楽しみそのものです。


便利なマナーオムツの普及で、犬という動物の尊厳が否定されることがないよう、
違うのではないかと思うことでしたので、あえて言わせていただきました。

マナーベルトやマナーオムツを知らずにはめている方には、
不適切な排泄は犬のストレス行動であることを伝えてください。

そして、自分たちは飼い主として不適切に排泄をすることのないように
室内でも屋外でも、散歩中でも、外出先でも、十分に環境整備に配慮をしていきましょう。

さらに、犬が不適切な排泄をすることのないように成長を促していきましょう。

それが犬と暮らすということだと思うからです。


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犬を叱るタイミング:犬には「罰」より「警告」を!

犬を叱るタイミングが、ずれていないでしょうか?

たとえば、テーブルに前脚をかけることやテーブルに乗ることを止めさせたいとします。

そのためには、テーブルに前脚をかけてはいけないということを教える必要があります。

やって欲しい事を教えるよりもやってはいけないことを教えるほうが
実は難しいものです。


伝えるのなら、犬にわかるように伝えなければ意味がありません。

意味がないどころか、犬は理解しないため同じ行動を繰り返します。

そして飼い主はいつも怒っていることになります。


叱るタイミングはこうです。

犬がテーブルに前脚をかける「前に」、警告音を発してください。

警告音は声で発します。
決して道具を使わないでください。

どんな言葉でも構いません。
「イケナイ」でも「ノー」でも「ダメ」でも結構です。

犬の名前は使わないでください。
犬は名前を持たない動物です。
犬同志は名前で呼び合うことはありません。

犬が自分の名前に反応するのは、それが特別の合図だからです。
だから叱る言葉には使いません。


テーブルに犬が脚をかけるときには、
テーブルに前脚をかけそうになるとき
犬の前脚が地面から離れる瞬間もしくは、
犬が前脚をかけようと体の向きを変えた瞬間です。

テーブルの前をウロウロとしてるときでも
あやしいと思ったら「そこ、イケナイでしょ」と警告を発します。

犬がテーブルに脚をかけてしまったあとに叱ると、
それはすでに「罰」になってしまいます。


自分に置き換えて考えます。

車に乗っているときに「止まれ」の表示で、スピードは落としたもののはっきりと停止しませんでした。

後ろからパトカーがウィーンといって追ってきます。
「はーい、そこ止まりなさい」とマイクでいわれるかもしれません。

すでに、罰です。
罰を受けることが決定した瞬間です。

それなら、止まれで停止できるように「はい、そこ止まりなさい」と
止まれの表示のところ言ってくれればいいのにと思いませんか?

実は、後者の方が圧倒的に交通ルールを守らせることができる仕組みです。
生物学的に考えてもそうなります。

では、なぜそうしないのか。
交通ルール違反の罰金を集めているからです。
年間に数十億の罰金が集まり、交通整備として使われているそうです。
罰金が集まらなければ、他の税金を回さなければいけません。
という大人の都合でこうなっています。

犬たちにはこんな思いをさせるのは止めましょう。

罰を与えるよりも前に、警告を与えましょう。

ほんの小さなイタズラやルールを知らなかったという犬は、
たいていはこれでおさまります。

あとは警告をいつまで続けるかというだけです。
根本解決には、犬と飼い主の成長は必須です。

dav

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ラジオ放送補足版:イヌのゴハンはどう選ぶのか?

 ラブFMで放送された月下虫音を聴いて、たくさんの方から感想や励ましのお言葉をいただきました。
遅い時間に耳を貸していただきありがとうございました。

 ラジオ放送では話せなかった事、補足も含めていくつか紹介させていただきます。


● 犬のゴハンを考える前に、犬の基本的な安全欲求を満たすこと

 放送された内容にひとつに、犬のゴハンは何を与えたらいいのだろう?という質問がありました。結論からいうと、環境と個体により異なるというしかありません。ラジオの中ではこのフードがいいという話をすることは、あえて避けました。情報集めはいくらしてもきりはないし、もっと大切なことを今回はお伝えしかったからです。

 もっと大切なこととは、どんなに栄養価の高いバランスのとれた食事も、犬がストレス状態にあったり、環境に強いストレスを感じると食べたものもきちんと消化して見になることはありませんということです。食事の前に環境の安定性を考えて欲しいということをお話ししました。

 その上で、次にゴハンについて考えるなら、いくつか参考になることがあります。


● 犬のゴハンはどうやって選べばいいのか?

 食事にはいくつかの選択肢があります。加工されたフード、手作りで加工したフード、手作りで加工を少なくしたフード、加工の少ない市販のフード、缶詰、療法食など、いくつもの選択肢があります。

 この中で自分の犬のためにより良い食品を選ぼうと思うなら、まず、外してほしい食品はこんなものです。

 添加物が多く臭いのきついものは省いてあげてください。人工的な添加物は化学薬品です。ビタミン剤もこの中に入ります。これらは大変臭いがきつく、犬の体臭にも影響します。しかし、ドッグフードには規制値というのがあり、これらの科学的な添加物がたくさん混入されています。添加物によって栄養バランスがとれたように思わせているだけで、犬にとって健康的な食品とはいえません。

 犬は食べ物を臭いでかぎわけて食べています。よく加工されたフードは消化はいいものでも、個体の食べ物のにおいがしません。たとえば、鶏肉が入っていても鶏肉の臭いはしません。こうしたフードは加工されていることで安定した排泄物をつくりだしますが、犬にとっては喜びの低いフードです。食べる喜びという欲求が満たされないものです。

 とはいえ、犬の中には加工されたフードしか食べられない犬たちもいます。いきなりいろんな食材の入った手作りゴハンを与えてしまうと消化不良を起こしてしまう場合です。これらの犬たちには、加工されたフードが一定期間は必要になります。もちろん、飼い主さんの方が手作りゴハンを与えることも難しいという生活をされているなら、加工食品の一部を臭いのある個別の食べ物を加えることで、食の満足をアップさせてほしいものです。

 手作りゴハンを与えている場合には、ナチュラルなフードに近く犬たちは食を楽しんでいるでしょう。食べ物を生で与えるかどうかは、犬のお腹は食材の確保の仕方、気温などの外的な環境との兼ね合いを見ながら判断してください。

 犬にあった食事とは、犬の身体的な消化能力を含む個体による差、季節や気温による変化により様々なのです。たとえば、この夏はとても暑く皆さんの中にも食欲が低下された方もいたかもしれません。実はわたしもゴハンがあまり食べられなくなり、加工された食品を食べ続けることもありました。気温が下がったり体調を取り戻して、ようやく普通に食事ができるようになりました。

 犬も年齢や状態によって、受け付けるものと受け付けないものがあります。老犬になるとますますこれが激しくなります。それまで加工されたドライフードしか与えたことのない犬でも、ササミや豆腐などの食品しか食べられなくなる犬もいます。犬と話し合いながらその犬にあった、そして犬が喜ぶ食事を選んでいってください。


● ラジオを聴いたあとでうれしいコメント

 生徒さんのおひとりから、こんなコメントをいただきました。

「はじめて犬にバナナを与えました。本当においしそうに食べていました。
今まで、ドッグフード以外のものは与えてはいけないと思っていたけど、
食べる楽しみも大切だと気づきました。」

 犬に健康で病気なく過ごしてほしいという気持ちはよくわかります。
でも、自分たちにあてて考えれば、このストレス社会でそんなに節制して体にいいものだけを食べ続けることができるでしょうか。あまり乱暴な食事になってはいけないけど、ときには果物も食べたいしといろいろと食べてしまいます。その食べ物を室内で暮らす犬たちはいつもそばで臭いを嗅いでチェックしているのです。


 以前、人の食事のときにいつもワンワンと吠える犬がいました。食欲はあって加工されてある程度の価格のする栄養バランスととれているとうたわれていたドッグフードを与えられていました。
 犬の様子を見て、飼い主さんとも話し合い、手作りゴハンに変えていただくことにしました。手作りで食材の臭いのする食べ物を食べるようになってすぐに、人の食事のときの吠えはなくなりました。
 ドッグフードを仕方なく食べていたのですね。逆にストレスだったのかガツガツと早食いだったのに、手作りゴハンにしてから味わうように食べてくれるようになってくれました。

 ゴハンを選ぶことも、これがいいといわれたからと選ぶのではなく、自分の犬にとって最適なゴハンは何かな?ストレスなく過ごせているかなと考える機会になると、犬のことをまた知るチャンスを得られます。


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犬語セミナーに学ぶ犬の世界:犬語の深読みを学ぼう

 週末はグッドボーイハート七山校で犬語セミナーを開催しました。今回は上級者編として開催しました。内容もいつもよりも深いものとなり学びの多い時間でした。


● なぜ、犬語を学ぶ必要があるのか

 七山校では毎月、福岡校では不定期に開催している「犬語セミナー」。犬のさまざまなコミュニケーションを読みとる学習をし、犬への理解を深める座学の講座です。そもそも、犬との暮らしの中で飼い主さんたちが最も興味があるのは「犬は何を考えているのだろう」「犬はどういう気持ちでいるんだろう」ということです。

 犬が考えていることに対する理解がなかなか進まず行き違いが生じるのは、お互いにこちらはヒトであり、向こうはイヌであることから、“種”のことなる動物だという違いがあるからです。そのため、犬の持つコミュニケーションの表現の中から人側がそのシグナルを読み取り受け取る練習をするのは、犬を飼う上で最優先させるべき学習項目です。はっきりといえば、それは犬にオテやオスワリを教えることよりも、ずっと大切なことです。

 ところが、これらのコミュニケーションはなかなか習得することが難しいのも事実です。たとえば、本にも犬の会話を知ろうというものがありますが、図や写真で紹介されるものと、実際のコミュニケーションには差が出てしまいます。比較的わかりやすいシグナルに落ち着かせ行動(カーミングシグナルとも呼ばれる)があります。これらのシグナルは単発で短いシグナルであるために、拾いやすくわかりやすいシグナルです。

 しかし、ほとんどのコミュニケーションは動きや音などといっしょに表現されるため、単純に受け取ることもできません。その犬のコミュニケーションをできるだけ正確に受け取る練習をするためのセミナーがこの「犬語セミナー」です。

 犬語セミナーを通して犬語を学ぶ目的は、犬がどのような状態にあるのかをまず把握するためなのです。この犬の状態を理解せずに、人の言う事を聞くようにさせるというのは一方的で相互コミュニケーションの機会を失うことになります。

 犬は関係性を蓄積させるようにつくっていきます。人と同じですね。相手が自分のコミュニケーションを理解しないと受け取ると、人とのコミュニケーションに不快感を覚え積極的なコミュニケーションをとろうとしなくなります。孤独になり落ち着かない行動をするようになってしまいます。


● 犬語の深読みとはどんなこと

 犬のコミュニケーションを受け取るには、受け取り側が人ですから視覚的に理解できる範囲内で、また聴覚的に受け取れる範囲内でということになります。ビデオなのでスローモーションにもなりますから、視覚的なシグナルの分析はかなり細かくできます。ただ、残念なのが臭いのコミュニケーションを受け取ることができないということです。犬たちは様々な臭いを発してお互いのメッセージを交換していますが、その世界に人は入ることができません。しかし、そうした見えないシグナルも、行動を通してある程度は理解することが可能です。

 今回は上級者編として犬の行動の読み取りのあとにさらに深読みを行いました。
犬語の深読みとは、犬のコミュニケーションに影響を与えている環境は背景について予測するということです。実際にはビデオを提供してくださった飼い主さんに、環境に関する背景をカウンセリングさせていただければ、細かく環境の影響について説明することができます。しかし、ここは犬語セミナーですから、知らない犬の行動を見て、犬の環境を推測するという逆バージョンでやってみます。

 この深読みをする目的は、犬たちの抱えている社会環境についてみなで考える機会を持つためです。自分の犬だけが幸せになればいいと思っている飼い主はほんの一部だと思います。犬と暮らしている人、犬と暮らしたことのある人の多くが、犬という動物から多くの恩恵を受けることから、すべての犬に幸せになって欲しいという願いを持っています。家庭で人と暮らす犬たちはみな、家庭で大切に飼育されています。栄養のある食べ物をたべ、温度管理をされた室内にいれられたり、屋外の安全な場所に居場所を提供され、清潔にしてきれいにして過ごしています。そんな現代でも、犬を取り巻く社会的な問題はたくさん存在しています。


● 現在の犬たちが抱えている複雑な問題について

 犬たちの抱えている現代の問題とは、行き過ぎた管理という飼育です。この言葉にはすでに矛盾があります。飼育という「飼い方」がすでに管理環境の中で行われます。犬を飼う上で「管理」という言葉は外せません。これは法律で定められた項目でもあります。昭和48年に議員立法で制定された「動物の愛護及び管理に関する法律」は改正を重ねながらも、犬と暮らすすべての人が守るべき法律として存在しています。

 もっとも管理すべきものとして、犬は必ずリードをつけて散歩をすることや、犬を飼育する環境は囲いのある私有地であること、囲いのない場合には係留をするという管理は、犬の飼養管理として義務付けられています。これは現在守るべき法律であることは、疑いもないことです。

 しかし、これ以上の犬を管理する方法が国内に普及しています。これらは西洋的な動物を利用することが前提での完全管理の方法です。少なくとも犬の飼育方法については、圧倒的にドイツをはじめとする西洋的なやり方が指示されています。しかし、どうでしょうか。私はこのことにはいつも疑問をかかえています。日本の土着の犬たちにこうした西洋的な飼い方や人との関係を持ち込むことを歓迎しないのです。その理由については、深いものがありとてもブログでお伝えすることはできませんが、グッドボーイハートでご縁のある方々とはこうした問題についても機会のあることにいっしょに考える機会をもっています。

 さて、次回の犬語セミナーは9月24日(日)12時~14時 グッドボーイハート七山校で開催します。

犬のことを深く学びたい方はぜひご参加ください。

クール寝顔

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<犬のしつけ方・動画>ベッドトレーニング:犬用ベッドは犬の室内生活に必須です

 犬のしつけやトレーニングをいつ頃から始めたらいいのかという質問に対する答えは、犬がどんな年齢であろうと「今」です。犬と暮らしていなくても、学ぶべきは「今」なのです。

 学ぶにはなによりも時間が必要です。今学んだことを理解できるようになるのにまず時間を必要とし、そしてそれを実際に身につけるようになるためにさらに多くの時間がかかります。さらに、それを人に伝えようと思ったら、その数倍の時間がかかります。

 テレビの洗脳なのか、世間の思い込みなのかわかりませんが、犬のしつけとトレーニングは生後6ヶ月を過ぎないと始められないと思っている方もいるようですが、とんでもありません。むしろ犬ができるだけ小さな年齢のときから、犬のトレーニングを開始してください。

 ここでいう犬のトレーニングとは、飼い主が犬のことを理解するための勉強のことであって、犬を訓練学校に預けるという意味ではありません。長期間の預かりトレーニングは一般の犬にはおすすめできません。

 子犬期にどんなトレーニングをすると思いますか。犬の日常生活に必要なしつけの多くは生後1才くらいまでに、ステップアップを重ねて教えていくことができます。

 今日はグッドボーイハートのパピートレーニングのカリキュラムのひとつでもあり、成犬のトレーニングにも必須項目のルールをひとつご紹介します。

「居場所を指定するトレーニングのベッド編」です。


● 居場所を指定する「ベッドへ」の意味と様子

 室内飼育の犬の場合には、犬だけのスペースを確保して生活環境の安定と安心を獲得させることは必須の犬を飼うための環境整備です。犬だけのスペースというのは、犬の立場からいうとそのスペースを他の誰かに侵されることのない安全地帯のことをいいます。また、個体のスペースを主張できるスペースでもあります。

 この物理的なパーソナルスペースは、人間も日常的に利用しています。自宅にあるダイニングの椅子、リビングのソファ、座敷の座布団、そしてベッドや布団といったものです。これらは、屋外の外敵から身を守るための場所というよりも、室内の限られた空間(テリトリー)を、家族(群れ)内の集団で上手に利用し、そのことで関係性を安定させるために役立ちます。

 では実際にどのような行動をするのかを動画で確認してみましょう。以下の動画は家庭訪問レッスンのときに撮影させていただきました。飼い主さんの「ベッド」という指示で自分たちのベッドに犬が移動するシーンです。

動画 「ベッド」の合図で自分の居場所に移動する子犬たち

 飼い主さんの「ベッド」という声の合図と手の指示で、それぞれの指定された犬用のベッドに犬がいきます。「ベッド」合図はしばらくそこで待機をするようにという時に使用しますので、ベッドの合図があったらフセの姿勢になれるように誘導していくと、ベッドでの行動がさらに安定してきます。

 動画に協力してもらったラブラドル・レトリバーの2頭の犬たちは、胴胎犬(兄弟犬)で、生後5ヶ月になります。トレーニングの際にオヤツは使用していません。報酬はもっと別のところに設定されています。


● 犬に「ベッドへ行って」のトレーニングがどのように役立つのか

 室内で犬の居場所を指定するトレーニングは生活の中で大変役立ちます。犬がどのスペースにいていいのかがわからないときに、ここに居なさいといわれることは、犬たちにとて居場所を獲得したという価値のある合図です。価値の高さは「居場所」という特別なスペースの存在が影響しています。

 人を例にして考えてみましょう。たとえば、家族の関係性によって、室内の家族が過ごす場所では細かく場所が指定されていることがあります。特にダイニングの椅子はそうです。

 食事をするときに利用するダイニングの椅子には、指定席というのがあります。みなさんのご家庭にもないでしょうか。自分はそこに座る権利があるというものです。食事をしようと思ったときに、兄弟間で席の取り合いになるのは、弟の席に兄が座ってしまうときです。お父さんはここ、お母さんはここという風にですね。いつもの自分の居場所に他の人が座っていると違和感を覚えるでしょう。時にはお父さんの椅子は格別立派ということもあります。昔は父親は上座に座るのが基本でした。居場所は家族間の序列を明確にするものでもあったのです。

 犬に話を戻します。犬はもともと屋外にテリトリーをもつ動物です。イヌ科動物が巣穴の近くで過ごすときには、かれらにはダイニングテーブルも椅子もありません。しかし、ある程度の配置がされています。あるのは巣穴とテリトリーの境界線だけです。巣穴には子犬たちが、巣穴の前には巣穴を守る犬たちが、そして境界線を外敵から守る犬は境界線を確認しながら配置されます。群れの中心的な存在のものは、少し高いところや全体を見渡せる中心地点にいます。

 そして一部の犬は、人といっしょに室内で暮らすようになりました。飼い主という人が管理する生活スペースです。寝る場所や隠れる場所としてクレート(もしくはケイジ)を与えられています。リビングで人とスペースを共有するときには、飼い主の居場所である椅子には上がらないように教えられるでしょう。

 最後に、リビングでくつろげる犬の居場所として犬用のベッドが必要なのです。犬用のベッドを室内に置いてある家庭はあります。犬は自分の好きなときにベッドの上で寝たり遊んだり、休憩したりしています。

ブランとマージベッド
 しかし、飼い主の指示で犬用のベッドに行ける犬はあまり多くありません。その理由の多くは、教える必要性の高さがわからないということ、日常的な犬との暮らしでのその合図の使い方が分からないとか、また、教え方がわからないというものでしょう。

 この合図の必要性の理由についてはたくさんあります。簡単に説明すれば、人と共有するスペースに自分の居場所を獲得すること、そしてその居場所は誰にも侵害されないものであるということ、そのことは、犬が自らの安全を確認できるということと、さらに群れの中での精神的な居場所の獲得にもつながっていきます。

 ひとつの状況を例にあげます。来客が来たときに来客に興奮したり警戒するシグナルを見落とされることがよくあります。吠えたりとびつくという犬の行動はわかりやすいですが、そうでないものもあるのです。

 来客時に落ち着かないシグナルとしては、部屋をウロウロとする、自分の体をなめたりかじったりする、おもちゃをもってウロウロする、床をなめる、来客に体をくっつけてくる、飼い主のうしろをついて歩くといったものも入ります。

 自分のテリトリーに、家族以外の動物が入ってきたのですから、落ち着かなくなるのは当然のことです。飼い主にとって日常であることが、犬にとっても同じようになることはなかなかありません。イヌ科の動物の生活では、他の社会的な対象となる動物が自分の生活圏に入ってくるのはとてもまれなことなのです。

 このときに犬にベッドにいくことを指示します。最初はクレートで練習をしますが、クレートとベッドは違いがあります。ベッドのテリトリーはもっとゆるいものです。クレートの中には人が手をいれられませんが、ベッドにいるときには簡単に犬に触ることができます。そのゆるい境界線の中に犬は居場所を獲得し、来客を多少の警戒心をもって観察していたり、環境全体の安定性についての情報を取得していきます。

 子犬のころはこうした観察や環境把握に時間がかかりますが、生後3ケ月もなると犬は自分の周囲の環境に対して強い関心を持つようになっています。少しずつ環境を把握させる練習もさせていく必要があるのです。もちろんそれは、たくさんの場所につれまわして、たくさんの人や犬に会わせることではありません。

 犬用ベッドに犬を行かせることは、犬を社会的に排除することではありません。むしろ犬用ベッドに行く練習をすることで、犬は安心を獲得し、自分の役割を理解し始めます。このベッドトレーニングは犬がインターホンに反応する前にできるようになることをおすすめします。

 少ない犬との時間でたくさん教えることがあるでしょうから、優先順位は決めていかなければいけませんが、少なくとも、犬にお手などを教えるよりはずっと重要なトレーニングです。


※関連する記事はこちらからどうぞ

・室内の犬用ベッド(ドッグベッド)のミラクル:犬の落ち着きを引き出す空間作り

・犬のクレートトレーニング:ハウスの合図でクレートに入る動画

・犬の「落ち着きない行動」:なぜ落ち着かない?

・クレートトレーニング


・グッドボーイハートお勧めグッズ:犬用ベッド編

・室内で生活する犬のための犬用ベッド

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人に吠えたことがない犬に吠えられるのは何故なのか:犬が見ている世界とは

 たまにというよりも、犬と会ったときに度々起きる不思議なことがあります。

 レッスンで訪問したり、偶然通りかかったドッグランの中にいる犬や、ときには散歩中に近付いてきた犬が、普段人に対してしているのとは違う行動をすることがあるらしいのです。


● 人には吠えたことがないんですといわれたこと

 たとえば、こんなことがありました。あるご家庭へ訪問レッスンに伺った初日のことです。わたしはまだ飼い主さんとも顔をあわせていません。インターホンを鳴らすと中からワンワンと犬の声がします。

 その声は、ワンワンというよりはガウガウという風に、戸口の向こうなのでこもった声ではありますが、多少の緊張感もあわせて伝わってきます。中から飼い主さんが「どうぞー開けてください。」といわれるので、戸口を5センチくらい開けてみます。5センチしか開けられないのはその後の犬の行動を多少なりとも予測しているからです。

 ドアを少し開けたとたん、玄関の框から玄関の戸口の前まで中にいる大きな犬がガウガウいいながら突撃する姿をみました。それで戸口を5センチから3センチ程度にせばめます。

 「すみません!犬にリードをつけていただけますか?」と大きな声でお願いします。戸口の向こうで飼い主さんが犬にリードをつけたのを確認します。飼い主さんがそのまま犬に引きづられないことを見ながらようやくドアをはっきりと開けると、犬はますますガウガウと今にもとびかからんばかりです。

 そこで飼い主さんがひと言「今まで人に吠えたことはないんです。」といわれました。


 同じようなことはなんどもありました。ドッグランの横を歩いていたら、中からウォンウォンと太い声で大型犬が私の方を向いて吠えています。周囲には犬も人もいませんから、わたしに対して吠えているのだとは思います。

 飼い主さんは犬を抱きかかえるようにしてなぜかわたしをにらんでいます。そして「人に吠えることなんてないのに」とひと言。もちろんその犬とは初対面で、犬との距離は10メートル以上は離れている上に、間には高い柵もあります。


● 他のパターンの「他の人と違う」といわれた犬のこと

 他にも普通の人とは反応が違うといわれたことがあります。歩道を歩いていると散歩中の犬がわたしのそばをとおりかかるときに衣類の臭いをとるような形で立ち止まってしまい、そのあとわたしの後を追うように数歩ついてきます。

 このときなぜか飼い主さんもついてきてしまう上に、このような状態で自分の背後を見せるとトラブルが起きることもあるので、一旦止まって相手の犬が下がるのを待つようにしています。

 犬は入念に臭いをとったあと、少し顔をそらして立ち止まりじっとしています。それをみながら飼い主さんは「他の人とは違いますね。犬を飼っているのですか?」とたいてい尋ねられます。

 犬と暮らしてはいないのだけど仕事で犬に接することがありますのでとお答えすると、飼い主さんの方は納得します。せっかくだから「他の人に対するのとどう違うのですか?」と質問させていただきます。「他の人にはとびついたり、体を寄せたりするんです。」とのことでした。なるほどですね。

 こんなことの積み重ねで、当然家庭訪問レッスンでも飼い主さんや他の人とは違う行動を犬たちが見せてくれます。犬のトレーニングクラスの訪問レッスンでは、インストラクターであるわたしが直接的に犬を訓練することはありません。少しだけやりかたの説明などをするときに犬に接するというだけのことです。

 しかし、ほとんどの犬は他の人とは違う反応や行動をするようになります。大人しくなったり、飼い主さんいわくいつもと違うおりこうさん、今日はできるモード、従順にしているなどといった行動になる犬たちがいます。


 しかし逆もあるのです。前述した「人には吠えたことがないのに吠える犬」と同じように、他人に対する反応がいつもより過剰になることがあります。
 こういう激しい行動が出たときには「わたしの後ろに100頭の犬がいるような感じですから」とか「他の犬に対する反応を同じ反応をされますから」という冗談ともつかないような説明で一旦は納得してもらいます。

 この不思議な犬の行動に注目されすぎると今日やりたいレッスンが不十分になるからですが、本当はこの犬の反応は犬の社会性を表現する大切な行動です。他のトレーニングを進めるうちに、この不思議現象も次第に理解できるようになります。


● 犬が感じているのは何なのか?

 タイトルには犬が見ているとしましたが、正確には犬が感じている世界は何なのかということです。もう少し科学的にいうと、犬が感知している環境は何なのかということです。その感知した環境の因子のひとつがわたしという“人間”です。

 もちろん、犬たちはわたしのことを人として間違いなく感知しています。まさかゴジラだと思っているわけでもないし、未知の生物と感知したわではありません。そして、一番疑いをかけられる「犬と間違えているのではないか」というわけでもありません。

 犬は臭いの動物です。確かにわたしは日常的にいろんな犬の臭いを衣類につけています。毎日洗濯はしていても、わずかに残った犬の臭いがついていることは間違いありません。犬が衣類の臭いをかいでいるときは、わたしに関心があるのではなく、今つけてきた犬の臭いに関心があるのだなということはわかります。だからといって、わたしを犬と勘違いしているということはありません。

 遠くで吠えられることもあります。逆毛を立てられることもあります。臭いがとどかないような状況でも、瞬時に吠えられることもあることです。犬に関心はありますが、凝視して相手を挑発するような行為をしたわけではありません。戸口の向こうにいてまだ会ってもいない相手に吠える犬は、一体なにを感知しているのでしょうか。

 こういうときに「オーラが見えてるんですよね!」といわれることがあります。気のようなものですね。戸口の向こうにいる相手に対してただならぬ気を感じて吠えているというのでしょうか。いやそこまで強い気を発するほどの人間でもありません。いたって普通の人間なのです。

 犬の先生が来ると飼い主さんが意識していたため、その飼い主さんの意識が犬に働きかけたのかもしれません。ただ、そうともいいきれません。同じ仕事なのにスタッフの訪問ではこうした行動が見られなかったからです。

● 犬の隠れた社会性を観ること

 こうしていろいろな状況を冷静に考えてみても、今まで人に吠えたこともないという犬が、まだ会ってもいない状況下で吠えるのでしたら、それはかなり高い犬の環境を感知する能力であると思います。オカルト的な意味ではなく、どのように感知しているのかは不明だとしても何かを感知したのでしょう。

 対面したときに明らかに犬の反応が他の人と違うことについては、ある程度説明ができます。なぜなら、自分が見ている犬というのは、見るではなく観るです。しかも、外側のかわいい容姿や形を観ているのではありません。知りたいのはその犬の性質について、特に社会性についての情報です。

 もしかしたら、犬はわたしが何を観ているのかを感知しているのかもしれません。そして慌てふためいて吠える犬は、何かを見透かされてるのを恐れているのかもしれません。自分にとって一番怖い相手は、自分のことを見透かしてしまう人です。犬という動物は、人に対して表面的にはお利口さんに言う事をきいているように見えても、実際には本来の社会的な服従関係にはないこともあります。それは観ればわかることです。

 ということで、もしカウンセリングに伺ったときに犬が他の人とは違う反応をしたとしても、決して驚かないでください。あなたの犬は環境がいつもと異なることを感知する能力を持っていて、それをあなたとの関係の中にも使ってきたということです。それは安定した関係を築く能力でもありますが、バランスを崩せば不安定な依存関係に発展していることもあります。

 こうしたなんでもないけどいつもと違う行動には、犬を知る上での重要なメッセージが隠されています。そのメッセージ受け取っていますか?

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お盆の犬のお預かりクラス:犬たちの夏のお昼寝は体調管理のために

 お盆に入り七山校周辺はますます涼しくなってきました。福岡佐賀方面では雨も降りました。一雨ごとに涼しくなれば、犬たちが活発になるあの秋がやってきますので、雨もまんざら悪くはありません。
 このお盆の間に帰省する飼い主さんたちから離れて、七山の季節を楽しみにやってきた犬たちが数頭います。その犬たちの姿を見ながら、あることを考えました。

● お昼寝してますか?

 まだ秋が深まるまでの間、どんな犬にも、そして多分人にも大切な時間といえば、お昼寝です。日中休みなく働いていらっしゃる方々には申し訳ないのですが、みなさんはお昼寝されるでしょうか?

 お盆のある日、数頭の犬たちがお預かりでいっしょになることがありました。2頭は数年来のおつきあいで気のおける仲間、そのうちの1頭と子犬の方もなんどか顔を合わせて距離を保てる関係ということで、テラスや室内に犬たちをセパレートして過ごしましたがとても静かに過ごしていました。

 交代で散歩や相手をしたり、草刈をいっしょに過ごしたり、それぞれにお昼のオヤツを食べたりしてまったりと過ごしていたのですが、昼過ぎの13時くらいになるとなんとなくわたしを含める全員が活動停止モードに入りました。

 それぞれの場所でそれぞれに始めたお昼寝です。昼寝のポーズも時間を経て少しずつ変わってきます。立ち上がって部屋の中を歩いても犬たちの方は起きませんが、少し気配が大きくなると起きてしまうので睡眠の深さはそれほど深くないようです。犬たちのうちの一頭はおちびさんだったので、寝言を言っていました。

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● 犬の昼寝の機能とはなんだろう

 犬という動物をいろいろと観察していると、もしくは日々観察する飼い主さんに話しを聴いてみると、犬とひなたぼっこが切り離せないように、犬と昼寝という関係もかなり深いつながりがあるようです。確かに動物の活動時間は、陽が上っている間、陽が沈んでいく間の朝夕です。夏場は太陽が高いところにある時間が長いため、その時間は活動を停止しています。

 動物は自分の内側の作用、つまり欲求に対して純粋に反応しています。人に飼われる犬ですから、飼われていることがストレスになるのですからストレスによる欲求の変化や行動の変化というのはある程度あります。その犬にかかるストレスを少し横に置いて考えると、犬の活動性は太陽や気圧によって左右される犬の中にある自律神経による調整によって行われているように感じるのです。

 たとえば、太陽が出ているときは自律神経の交感神経が活発になります。交感神経は活動の神経なので、太陽がのぼっていれば活動が高くなるように思えます。しかし実際には熱帯低気圧が迫ってくるこの季節は気圧が下がるため副交感神経が活発となります。副交感神経は休息の神経なので活動が低下します。そのため、犬たちも低気圧の多い夏の季節、特に気圧の下がる日中には昼寝が多くなるという仕組みのようです。

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● 睡眠の質を高めるためによいお昼寝をしよう

 人は行動を情報操作によって左右され考えて決めてしまうことがほとんどです。たとえば、テレビでこれが老化防止に効果があると紹介された食品がその日のうちにはスーパーに山積みされています。つまり売れるからです。

 睡眠についても同じような傾向があります。昼寝は短い方がいいとか長い方がいいとかいろいろと情報がたくさんありますね。情報によって正否を決めてからでないと行動できなくなってしまった人と違って、犬の方は自然体です(ストレスの低い犬のことです)。

 自然体の犬は昼寝の時間を決めていません。好きなときに寝て好きなときに起きています。言葉を変えると体の要求に応じて寝ますし、体の要求に応じて起きています。ただ、犬が自然に寝たり起きたりしたいと思っても、周囲の環境が不安定だと動物は寝ることはできません。

 犬の周りでは常に人間が活動しているわけですし、その人間が環境の安全の確保した状態で、部屋に閉じ込められているとかつながれているとか柵の中に入れられているのです。環境を飼い主などの管理人に委託しているといえばいいでしょうか。

 ところが人はなかなか日中にゆっくりとすることがありません。行動は止まっていても脳内は常に活動しているのが人という動物です。妄想も含めて人の脳はなかなか止まることができません。一番できることは、自分も昼寝をしてしまうことですが、今度は人が昼寝をすると犬よりも熟睡しすぎてしまうため管理人として不十分となり、犬の方が起きてしまうことがありますね。人もいっしょにお昼寝はおすすめしますが、犬の気配ですぐに起き上がる程度のちょっと横になって浅く眠ったり起きたりするという術を身につけるといいでしょう。

 実はわたしは大変長い間このタヌキ寝入り状態で過ごしてきました。犬を管理する施設で働いていたので夜でもいつも犬の気配で犬舎を確認しに行ったからです。若いからできたことですがとても疲れる仕事でした。当時は人手がなく毎日のことでした。しかしこの術は今とても役に立っています。犬たちの昼寝のときにタヌキ寝入りでうまく休息をとることができます。夜も短期間ですからこの状態で寝ています。ちょっとした犬の気配でも起き上がることができます。

 夏の昼寝は犬の疲れを回復させてくれます。お留守番中には犬は十分に休めていません。たいていの犬は緊張して過ごしています。前脚や後脚をずっとなめている犬もいます。体をかき続けている犬もいます。雨の日や太陽の高い日にお出かけの予定がないなら、お昼は犬のお昼寝につきあってあげてください。今年も犬の夏が終わっていきます。あと少し体をゆっくりと休めて、活動期を迎えましょう。

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どの季節を生きているのか:犬との暮らし時間の差を越えるために

先日あるご家庭で「一番暑い夏は越えましたね。もう秋ですからね。」というと
「少し季節が早いのですか?」と尋ねられました。

お尋ねの理由はわかります。福岡では、また夏まっさかりというほどの暑さなのに、
もう秋ですからねというのは不思議ですね。

理由は、週の半分くらいを七山に戻って過ごしているからです。

実はわたしも七山に来たばかりのとき、山の手入れについて土地の方とお話しているときに
季節の違いを知りました。
自分が夏だと思っていた8月の中旬は、山の人にとっては秋の始まりなのです。

単なる価値観の違いではなく、肌を通して季節の違いを感じます。

8月7日に立秋を過ぎて、七山ではすっかり秋の風を感じられるようになりました。

まだ蝉の声が一日中響いてはいますが、ツクツクボウシの声が聞こえるようになりました。
この声を聴くと秋が近付いているというお知らせを受け取ったような気持ちになります。

棚田の稲穂は頭をしっかりと下げています。

栗や柿の実は枝がたわむほどになり、いくつかは青いまま落ち始めています。
雑草は夏枯れを終わり、まだまだ最後のひと葉を広げようとします。

山の斜面にオオスズメバチが巣を作ってしまい、山歩きのコースの変更を迫られました。
これが最近の一番の山の悩みです。
ハチは10月にかけて巣を大きくしていきますので、ハチの数が増えるのはこれからです。
これも季節の流れです。

この季節の移り変わりは、街中のファッション店の季節の先取りと同じ速さですが、
肌を通して伝わってくる感覚は全然違います。

この季節感を全身で味わえるようになって、やっと私も8月のこの季節に秋が始まったと
思えるようになるのに何年もかかりました。

犬たちが季節を情緒的に受け取っているのかどうかはわかりません。
ただ、犬たちが太陽や風の移り変わりを毎日感じていることは確かです。

過去にも未来にも執着しない犬という動物ですから、冬のことをうらやむこともありません。
早く涼しい秋になればいいなと思うこともありません。
ただ、今日の一日を体で感じることが彼らのできる最大のことであり、そして最も有意義なことです。

こうして外気にあたって季節を感じることが動物の幸せであると思えるようになったことは、七山という土地で過ごす時間をいただいたことで体が学んだ大切なことです。

考えると自分にとっては約50回(ここは曖昧に)の夏を越したということ。
犬たちは多くて10数回の夏を越すだけです。
犬の寿命を考えると、犬によっては6回、7回、8回の夏だけだとしても不思議ではありません。

しかし、これはやはり回数ではないと思うのです。

どんな夏をどういう風に過ごして越したのか、やっぱり毎日の生きる質を思います。

人と比べるとほんのわずかな回数しかない犬たちのそれぞれの季節が、自然とともにあり、季節を体感できるものであるための環境作りは決して簡単ではありません。

でも、どんなことも思わないと変わりません。

まず、犬にとって大切なことは何かを思い、考え、そしてそれを実現しようと願い、行動する。できなくても今日できることをひとつやってみる、そのくり返しです。

犬の生きる時間の短さを思うと、なかなか人の成長は追いつかないのですが、
気づいて変化しようとする飼い主と共にいるだけで、犬は気持ちが楽になるのではないでしょうか。

活発なハチを横目に、秋はやっぱりお山のシーズンです。

クウーちゃん山登り

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犬の排泄行動に自由を与えよう!:ペットドアを使って広がる犬の世界

犬が室内飼育であったら、安全に導入していただきたい犬用の道具があります。

ペットドアです。ペットドアはいろんな意味で犬の世界を変えるすばらいい道具です。


● ペットドアって何?どうやって使うの?

 ペットドアとは、室内と庭やテラスやべランドを仕切る戸口につける犬猫専用のドアのことです。室内の部屋と部屋を行き来させるためにも使われることがありますが、今ここで重要性を説明するのは屋外と屋内をつなぐドアにつける犬用の出入口です。

 使いやすいタイプは、網戸に設置するタイプです。引き戸のサッシの間に挟むものもありますが、留守中のセキュリティの意味からも現実的ではありません。ペットドアは飼い主が室内にいるときに使用するものと考えると、網戸の一部にペット用の戸口をつければいいということで十分です。

ペットドア

 このペットドアをつけることで、犬は庭やテラスやベランダという屋外へ飼い主の手を借りずに行くことができるという権利を獲得します。ペットドアをつけなければ、庭に出るたびに飼い主に扉を開けるように要求する必要があります。犬によっては戸口の前に座ったり、気づかないと扉に手をかけて音を出したり、扉の前をウロウロしたりします。しかしこれも、伝える力の高い犬の行動です。

 他の多くの犬は飼い主に上手く庭に出ることを伝えることができずに、すぐに諦めてしまうのです。これもあまり気づかれていないことですが、じつに簡単に諦めてしまいます。犬の生活が飼い主不在ではなりたたない自律性の低いものなので、庭に出たいと思っても立ち上がって扉の前に座ることができないような状態に追い込まれてしまう、それが今の犬たちの姿です。ペットドアによって飼い主が犬の外に出たいという欲求に気づかなくても、犬は飼い主を気にすることなく庭やテラスに出ることができます。

 生徒さんにお願いしてご自宅の様子を撮影していただきました。短いビデオですのでご覧ください。
ペットドアを使って庭と室内を行き来する犬(動画)
※you tube に投稿した動画へリンクします

● ペットドアによって変化する犬の行動

 この自由行動によって一番先に変化するのは、排泄をどこでいつするのかという生活習慣です。庭やテラスなどの家の周辺の屋外に出入りができるようになると、犬は屋外で排泄をするようになります。特に土や草などの自然環境のある庭であれば、比較的早い時期に庭で排泄ができるようになるでしょう。

 この排泄行為によって犬のテリトリーは変化していきます。犬の生活にとって最も大切なのはテリトリーのあり方です。屋外にも犬のテリトリーができることは、城にたとえると堀ができたようなものなのです。これは犬の生活する世界を現実的に大きく変えていきます。

 具体的な変化としては、室内での排泄をしなくなり庭で排泄をするようになります。中型犬以上だったら当たり前のことと思われるこの行動も、自律性の低い小型犬だとなかなか実現しません。散歩中に排泄をするが室内でのトイレで排泄をする行動がずっと続きます。むしろこれをいいことだと思っている飼い主さんも多いようですが、人にとって都合のいい行動が犬の発達の視点からみて良いといえるかどうかは別です。室内で排泄行動を続ける犬は、精神的に人に依存している状態であり、自律性は低いということになります。

 先のビデオに登場してくれたミニチュアピンシャーの犬ちゃんですが、マンションでも使っていたペットドアを戸建てでも使うようになりました。マンションの時にはベランダではひなたぼっこはするけど排泄はなかなかせずに、室内排泄行動がつづきました。しかし庭に自ら出るようになって、現在では庭でしか排泄をしないため室内にあったトイレトレーは不要になりました。

 ベランダでの排泄は、子犬の時期には上手くいくのですが成長が進むとしなくなってしまいます。まだ散歩中に排泄場所を決めていないような時期では、人の管理する空間の中の屋外でするという行動になるからです。犬舎で管理されるような犬たちも、排泄場所というのは決まっているので、コンクリートの上で排泄をします。これも収容管理上とはいえ、犬の習性には無理のある行動です。

 成犬はマンションのベランダでの排泄をしないとしても、ペットドアはマンションでも効果を発揮することがあります。たとえば、よくひなたぼっこをするためにベランダに出て行く犬がいます。ベランダから外に出ることもできないし、強い風、反響する音や臭いなどは動物にとってはとても違和感のあるものです。そうであっても、閉ざされた空間に長く閉じ込められることは犬にとってストレスになるものです。ベランダに人があまり来ないことを知っている犬は、人との距離をとるために出たり入ったりすることもあります。そうであっても犬にとって必要なスペースになることがあります。

 しかしペットドアはやはり戸建てで使用してください。ベランダは安全なようで危険なこともあります。動物はビックリしたら飛び越えられないような柵も飛び越えることがあります。火事場の馬鹿力というものが出るのでしょうが、犬が絶対にベランダの囲いを飛び越えないとは言い切れません。ベランダ使用の方は犬の行動を管理しながら、ベランダを気分転換の場として上手に提供してあげましょう。


●おまけ

 さて、ペットドアの画像を検索していてこんなもものを見つけました。
ペットドアのデザインしたiphoneのケース

 アメリカ製のデザインのドアかもしれませんが、海外ではドアそのものをペット用に加工されていることもあります。こうしたドアのデザインは珍しくないようです。戸建てなのに室内で排泄をさせるということの方がずっと珍しいです。映画にもよく犬を飼っている家が出てきますのでチェックしてください。室内のペットシーツを置いていることは珍しいことなのです。

 ペットドアの利用を通して犬のナチュラルな排泄行動やテリトリーの広がり、犬の自律性について考えるきっかけを作ると楽しく理解が進みます。下の写真は、大きすぎてペットドアがなかったオポのための手作りのペットドアです。

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